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マネジャーが身につけたい対話のファシリテーションスキル

介護施設やデイサービスでは多くのスタッフでチームで働いています。

それぞれの仕事が一人で完結することは少ないため、職員同士の連携が不可欠です。したがって職員の連携をスムーズにすることはチームマネジメントをしていくうえで、たいへん重要なことです。

マネジャーはいくつかのコミュニケーションスキルを時と場合により使いわけています。今回はそのなかでも最も大切な「対話」のスキルについてお話しします。


対話と議論と雑談

まずは仕事の場面における議論と対話と雑談の目的を僕なりに整理しておきます。

【議論】意見の優劣を決める

【対話】自分と相手の考えを理解しながら共通解を探る

【雑談】自分の言いたいことをただ言う


例として、食事中むせることが増えてきた人の食形態について、看護師と介護士が話し合っている場面を想像してみましょう。


看:最近むせることが多いし、誤嚥のリスクが高まっているから、安全のためペースト食に変更すべきです。

介:食べることが数少ない楽しみのひとつになっています。ペーストにするのは生きるよろこびを奪うことです。だから気をつけながら固形の食事を食べてもらいたいです。


A<議論の場合>

看:誤嚥して肺炎になったら、施設の管理責任を問われます。楽しみよりも安全を最優先すべきです。

介:食べることが生きがいの人から食べるよろこびを奪ったら、生きる意味がないじゃないですか。リスクがあっても食事形態は維持すべきです。

看介:施設長!どうしますか?

施設長:ではここは安全を優先して看護師の意見を採用しましょう。

看:(やはり私が正しかった。介護士は何もわかってないからダメね)

介:(何で施設長はわかってくれないんだ。納得いかない・・・)


B<雑談の場合>

看:医療職としては、安全性は譲ることができません!

介:生活を支える介護職としては、生きる喜びを奪うようなことはできません!

施設長:まぁまぁふたりとも。そう熱くならないで。

看:熱くなっていません。医療職として気になったことを言ったまでです。

介:私も熱くなってはいません。生活を一番に考えてそう思っただけです。

施設長:難しい問題ですね。どちらの意見にも一理ありますね。私はどちらかというと介護士の考えに近いかな。とりあえずまた今度検討しましょう。

看介:(で、いったいどうするの?)


C<対話の場合>

施設長:二人の意見が違うようですね。だけど二人ともご本人のためを思って話しているのですよね?

看介:はい、もちろん。

施設長:では二人の目的は同じですね。ただしその手段が違う。二人の意見の差を知り、お互いが納得できる答えを探していきましょう。看護師は誤嚥による肺炎のリスクが高いと考えています。誤嚥のリスクという点で介護士はどう思いますか?

介:わかります。確かに最近はむせやすいので、誤嚥のリスクは高まっていると思います。

施設長:介護士は食べる楽しみをたもつためには、ペーストにしない方がいいと考えています。食べる楽しみという点で看護師はどう思いますか?

看:食べることが生きがいの方ですし、食べる楽しみは大事にしてあげたいと思います。

施設長:二人ともお互いの意見に、同意する点はあるのですね

看介:はい。そうですね。

施設長:では、二人の考えが分かれるポイントはどこでしょう?

看:僕は楽しみよりも安全を優先すべきだと思います。健康でなければ食事を楽しむこともできないのだから。

介:私は食べられるうちは、食べる楽しみを優先すべきだと思います。楽しみもなくただ健康でいることに何の意味があるのでしょう。

施設長:看護師は健康優先、介護士は楽しみ優先という考えですね。ではご本人は健康と食の楽しみのどちらを優先したいのでしょうか?

看介:・・・それは、直接本人に聞いたことはありません。

施設長:健康と食の楽しみはどちらも大切というのは二人とも同じ考えでした。私も同感です。どちらかを取ればどちらかを失う可能性がある。つまりバランスの問題です。ではどうやって健康と楽しみのバランスをとったらいいと思いますか?

介:本人の考えを直接聞いてみるのがいいと思います。

看:家族にも同席してもらったらどうでしょう。

施設長:二人の意見が本人や家族の意向を確認しようということで揃いました。本人家族の意向確認は大切ですね。早速ケアマネジャーにカンファレンスを設定してもらいましょう。

看:(意見が分かれた要因は本人の意向確認のプロセスが抜けていたためだった。大切なことに気づけて良かった)

介:(誤嚥リスクの評価については専門ではないので実は自信がなかった。カンファレンスの時に私もしっかり確認しよう。そのうえで本人の望む答えが出せたらいいな)


対話のファシリテーションスキル

対話には、お互いの考えや価値観を批判せず尊重するというルールがあります。対話型コミュニケーションにおいて意見が対立しているとき、マネジャーがとるべき立場は議論の優劣を判定する裁判官でも、雑談の傍観者でもなく、対話を促すファシリテーターです。


対話の第一歩は目的(ゴール)の確認です

上の対話では看護師・介護士ともに「ご本人のためを思って」というのが共通目的でした。施設長はまずその点を確認しています。意見が対立していても目的が同じであることを理解することで、対話の原則「相手を批判しない」に立ち返らせることができます。


目的が確認出来たら、次は差の確認です

上の例では、健康を重視する看護師と楽しみを重視する介護士がお互いの意見を理解できるかどうか確認をしました。お互いの意見に理解は示したものの、施設長の質問によって優先順位に差があることが分かります。


差が分かったら、差の原因を探します。

施設長ならもしかすると初めから原因に気づいていたかもしれません。しかし、対話は「気づき」のコミュニケーションです。答えを教えるのではなく、対話の当事者が自ら気づくことが大切です。したがって、ここでは気づきを促すような質問をするのがポイントです。


差を埋める方法(答え)を一緒に見つける支援をします。

議論ではA/B2つの意見が出た場合そのどちらかを結論としますが、対話においてはA/BのどちらでもないCという新しい答えを一緒に探す場合もあります。(例の場合ではペースト(A)でも通常食(B)でもなく、カンファレンスの開催(C)が答えになっています)その場合も、ファシリテーターが答えを出すのではなく対話の当事者が答えを見つける手伝いをします。


いかがでしたか。

マネジャーにとって対話のファシリテーションスキルは必須です。慣れないうちはなかなかうまくいかないかもしれませんが、この記事を読み返してぜひ実践で使えるようになってほしいと思います。


めでたしめでたし


立﨑 直樹

めでたし〃では、ファシリテーションについての相談、研修を行っています。個別でも集団でも対応可能です。詳しくお知りになりたい方はコメント欄もしくはTwitterのDMへご連絡ください。


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