【入門】データの読み方:有効求人倍率
「有効求人倍率」という言葉をご存じですか?
仕事を探している1人に対し、何件の求人があるかを示す数字。求人倍率が1倍より高ければ、求職者よりも企業からの求人が多く、人手不足感が強まっていることがわかる。 ※(日経4946)より引用
2021年7月現在の有効求人倍率の全国平均は1.15倍です。(NHKニュース)
都道府県別にみると大きな差があります。
沖縄県 0.84倍 東京都 0.91倍 大阪府 0.94倍
1倍を切っているということは、求人募集数が仕事を求めている人(求職者)の数より少ない。つまり仕事をしたくても仕事に就けない人がいる状態です。
福井県 1.95倍 秋田県 1.70倍 島根県1.69倍
これらの県では希望する人が全員仕事に就いても、まだ人手が足りない状態といえます。
有効求人倍率は職種別の統計もあります。
2020年度の介護・福祉分野の有効求人倍率(参考リンク:JOINT)はなんと4.53倍。
1人の求職者を4~5事業所で奪い合っている状態です。
これが「介護福祉業界は慢性的に人材不足」と言われる理由です。
ここまで読んで「介護福祉業界の給料を上げて人を増やすべきだ!」と大声で主張するのはちょっと待った方がいいと思います。効果的な戦略を立てるには統計を読む力が必要です。
有効求人倍率はハローワークだけでなく、様々な情報機関で統計を出していて、それぞれのデータには乖離があります。
また統計は規模(母数)が大きくなればなるほど、実態を正しく反映することが難しくなります。
もし実態ベースの有効人材倍率が4.5倍だとしたら、必要な介護を受けられずに生活する”介護難民”がもっと溢れかえることになります。医療崩壊ならぬ介護崩壊です。
現実は不足しながらも事業者と働く人の努力により「何とかしている」のだと思います。今後さらに要介護者は増えるので何らかの対策は必要です。
もし有効求人倍率1倍を目指して業界全体の給与水準を上げたらどうなるでしょう。
多くの介護事業者の収入は介護保険財源に大きく依存しています。事業者の収入が増えないのに給与(人件費)を上げたら、多くの事業所は経営を継続できなくなります。
では社会保障費(介護保険財源)そのものをを上げたらいいじゃないかと考えられます。しかし今度は国の財政を圧迫します。今でも税収の半分以上が社会保障費です。社会保障費がさらに上がれば、将来のための投資(若者の育成・必要な公共インフラ整備等)が減ります。
僕は大きな統計数字を”傾向として”捉えます。
どのデータを参照しても、全職種平均と比較して介護福祉職は有効求人倍率が高い。つまり介護人材を確保することは容易ではない。これは客観的事実です。
僕はこの事実を介護事業所のマネジメントに以下のように反映させます。
ポイントは3つ
・採用を戦略的に行う(勝てる採用)
・退職する人を減らす
・人手がかけずにサービスの質を維持する仕組みづくり(生産性の向上)
まず有効求人倍率4.5倍を勝ち抜かなければなりません。
他の4社よりも”働きたい”と思われる採用活動が必要です。人がここで働きたいと思うのは給与待遇だけではありません。求人広告費と採用数は必ずしも比例しないものです。戦略的な採用活動が重要です。
採用が難しいなら、退職を減らす。
退職がなければ採用も少なくて済みます。社員が働き続けたくなる事業所づくりはマネジャーの重要ミッションです。
働く人数そのものを減らすことも考えます。
業務を見直し、本当に必要な仕事なのか、コンピューターやテクノロジー、ロボットに代替できるものはないか見直します。
人間を1人雇用すると毎年300万円以上のコストがかかります。もしテクノロジーに500万円の投資をしたとしても、2年以上使うならば人間を雇用するよりも安くなります。
それぞれの項目については、またの機会に詳しく解説していきます。おそらく各項目で1冊ずつ本になるレベルです。
今日はデータをどう読み、どう活かすか書きました。
データに反応する(給与水準を上げろ!)のではなく、データを戦略的に活用する方法を身につけて、いい事業所を作っていきましょう。
めでたし〃
立崎直樹
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