専門家の本音を引き出すリーダー
あらゆるジャンルに「専門家」が存在します。
専門家はその分野に関して、とても詳しい人。
私たちは、わからないことや判断に迷うことを専門家に相談します。
また、同様に判断を迷ったときには上司に相談して見解を求めます。
相談することはいいことなのですが、気をつけたいことがあります。
判断を迷っていたことに対して専門家や上司に意見をもらうと、私たちは自分の頭で考えることをやめてしまう傾向にあるということ。
専門家が言ったのだからこれでいい。上司が言ったのだからこれでいい。と。
意見(見解)と判断は違う
そもそも、あなたは専門家や上司に相談したのであって、判断を委ねたわけではありません。それなのに彼らの「意見」を「判断」と混同してしまう人がいます。
専門家はその専門分野からの視点で意見を発信します。物事を多角的にとらえて総合的に判断しているわけではありません。専門家の意見を踏まえて総合的な意思決定をする(判断をする)のが意思決定者です。組織の意思決定はその組織の管理職が行います。
例えば、高齢者住宅における感染症対策。
感染症対策と日常生活の継続の狭間で、管理者やリーダーたちは1年以上ずっと悩み続けてきました。
感染症対策の専門家は、人との距離をとることの必要性を訴えます。飛沫で感染することが分かっている感染症ですから、感染させないための対策を意見をするのは専門家として当然の役目です。
では、高齢者住宅で生活する人が1日3食、隣の人とは2メートル以上の距離をとり、黙って食事をすることは、絶対的に正しいことなのでしょうか。
感染防止策の面だけを捉えれば正しいです。しかし、人とのつながりや食べる楽しみを考えたらどうでしょうか?むしろたくさん交流して、たくさん話をした方がつながりは太くなります。
感染症対策と人とのつながりは相反することがたくさんあります。両者の矛盾の間を取りながら、「感染症予防をしつつ、人とのつながりを大切にする」という微妙なバランスを探すのが、管理者の役割です。
判断を丸投げする管理職vs専門家
「専門家が2m以上の距離を開けて黙って食事を食べるようにと言ってたので、今日からはそのようにします」と管理職が宣言しました。
するとスタッフが「入居者同士の交流がなくなったら、暮らしの楽しみはどうなるんですか?」と質問します。
管理職「私も交流は大事だと思いますが、専門家が言っていたので、その指示に従ってください」
スタッフはもうこれ以上何も言えません。この管理職は自らの判断するではなく専門家に判断を丸投げしているので、スタッフとしては管理職に何を言っても無駄だと思ってしまいます。
絶対的な正解のない事柄に対して判断を下すことは、とても苦しいし、判断した後もモヤモヤします。それでも何かしらの判断をしてチームを導くのが管理職としての役割です。
私ならこう伝えます。「専門家からはもう少し距離を置いて食事をしなさいと助言されました。今は感染が急拡大していてウィルスが侵入する可能性が高いので、つながりを少し犠牲にしても感染予防策を優先します。そのかわり、食事以外の時間でつながりを作れないか、みんなで一緒に考えませんか?」
管理職が判断するのは感染予防の方法ではなく、感染予防と人のつながりのバランスの重心をどこに置くかということです。
また、一見自分で判断しているようで、実は丸投げというケースもあります。
「専門家は距離を置くようにと言っていたけど、つながりも大事なので、距離をあけたうえで話をしながら食べてもいいか専門家に確認します」という管理職。
迷ったとき独断で判断せず、専門家に意見を求めることは大切です。そしてその意見を基に最終的な判断をします。「専門家に確認したら、やはりマスクなしの会話による感染リスクは高いと言っていました。少し距離をあけたとしてもマスクなしでの会話は感染リスクが高いので、今はマスクをしている間の会話は控えてもらいましょう。」
判断を丸投げする管理職はこうです。「専門家は話すことで飛沫が飛ぶから駄目だと言っていました。だから会話もダメです」
両者の違いが判りますか?
前者は専門家の意見を参考に管理職が判断しているのに対し、後者は専門職がダメと言ったからダメなんだと管理職としての判断を放棄しています。
判断を丸投げする管理職に、専門家は本音を言わない
感染症の専門家も、人のつながりの大切さは分かっています。それでも専門家としては「感染を予防する」ことが最重要事項なので、つながりも大切だから食後の5分ぐらいはマスクなしで会話を楽しんでいいですよ、とは言えません。
特に責任を丸投げする管理職に対しては、専門家は本音(ぶっちゃけた意見)を絶対に言いません。丸投げする管理職は「専門家がマスクを取って会話していいと言っていたので、食後の会話はOKにします」と専門家の意見を都合よく利用し、万が一感染が発生した時にも「専門家が5分程度ならいいと許可をしたから」と専門家に責任を押し付けるからです。
一方、自分の責任で判断する管理職に対しては、権威をみだりに使うことがないとわかっているので、専門家も腹を割って自分の意見を述べることがあります。結果、専門家の本音を引き出せる管理職はより適切な判断をしやすくなります。
権威の蓑に隠れるな
感染症の専門家を例に話をしてきましたが、上司についても同じです。
「社長が言ってたから」「上司が言ってたから」という枕詞をつけて、自分で判断することを放棄する管理職がいます。
はっきり言って、伝達するだけの管理職はいりません。伝言だけならビデオメッセージの方が正確に伝わります。
管理職は上司の意見を理解したうえで、自分の頭で考えて、チームの意思決定をし、それをメンバーに伝える人です。
人の意見を理解する読解力。
様々な要素や意見を基に考える論理的思考力と判断力
そして、人に伝える伝達力。
管理職になると、現場のスタッフとは異なる能力も磨く必要があります。このnoteマガジンでは、介護施設・介護事業所の管理職(リーダー・マネジャー)が必要な能力を磨けるような記事を随時更新しています。お好きな記事から読んでいただき、一緒に楽しく学んでいきましょう。よろしくお願いします。
立崎直樹
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