見出し画像

『幸福寿命』 <第3弾>医療アプローチと生活アプローチ

介護のチームリーダーやマネジャーにお勧めの本を紹介します。

『幸福革命 ホルモンと腸内細菌が導く100年人生』(伊藤裕 著・朝日新聞出版)


今回の記事では、介護のチームリーダー向けに、本書が介護にどう転用できるか、三部構成で考察しています。


1部:幸福寿命との出会い 〜平均寿命と健康寿命と幸福寿命〜

2部:幸福はどこにある?

3部:医療アプローチと生活アプローチ


この記事だけでも、理解できるように書きますが、1部と2部を先に読んでいただくと、より理解しやすいと思います。


前回までのあらすじ

第1部 「死ぬまで健康に」より「死ぬまでしあわせに」を目指そう。

健康寿命だけでなく、幸福寿命を伸ばしましょう。


第2部 しあわせは”あいだ”に存在する。

”あいだ”があるから「しあわせ」を感じる

細胞と細胞の”あいだ”、過去と未来の”あいだ”、人と人の”あいだ”


しあわせを生み出すホルモンの世界


一人の人間も、分解すれば、細胞の集合体です。

脳と身体は「別世界」で、それぞれ別の原理で動いています。

心の状態と身体の状態がアンバランスになり、両者の”あいだ”が途切れると、幸福から離れてしまします。


心と身体の”あいだ”を埋める物質がホルモンであり、心と身体の健全な状態を、同時的に達成するためのコミュニケーションツールであると著者は解説しています。


本で解説されている、幸福を生み出すホルモンや腸内細菌の一部を紹介します。


【ミトコンドリア】

生きる源。細胞の代謝を活性化させるエネルギー源。老化とはミトコンドリアの衰えであり、ミトコンドリアを元気に保つことで健康は維持される。


【グレリン】

ミトコンドリアを活性化させる。おなかが減ったときに胃から分泌されるホルモン。お腹がグーとなるのは、グレリンが分泌された合図。つまり、お腹が鳴るのは幸福の合図。


【オキシトシン】

愛情ホルモン。人と人との”あいだ”を繋ぐホルモン。相手を「信じる」という選択を促すのもオキシトシンのおかげ。大切な人と触れ合うだけでなく、ペット触れ合うことでも分泌される。


【女性ホルモン】

分娩に耐えられるよう、骨を強くし、血管を丈夫する。これが男性より長寿になる要因の一つと考えられている。男性ホルモンが一時的な変化や勝負事に強いのに対し、女性ホルモンはその変化を長く固着させることを目指す。


そのほか、ドーパミン(幸福ホルモン。”足るを知る”を教える)、ノルアドレナリン(覚醒)、アドレナリン(ノルアドレナリンの補助)、セロトニン(安静)などの幸福に影響するホルモンが他にもたくさんあります。


しあわせを生み出す腸内細菌の世界

しあわせの素は、人と別の生命体(腸内細菌)との「あいだ」にも存在します。


腸内細菌というと、”善玉””悪玉”を思い浮かべるかもしれません。そして、善玉が多いのはいいけど、悪玉は少ない方がいいと。

私もそのように思っていました。


しかし、お互い代謝物を交換しあって存続している腸内細菌の世界では、より多くの種類の腸内細菌が存在することが重要なのだそうです。


腸内細菌の好物は、豆などに含まれる食物繊維。

食物繊維は、直接的に栄養として吸収、消化することができません。しかし、腸内細菌のエサとして、非常に重要な役割を果たすので、意識的に摂取した方がいいと書いてありました。


腸内細菌については、著者の専門分野です。

腸内細菌の仕組みや、腸内細菌を味方につける方法などについて、「なるほど」と思うようなことが、詳しく解説されています。ぜひ本文をお読みください。


医療アプローチと生活アプローチ

体内の”あいだ”を繋ぐホルモンや腸内細菌に対するアプローチを、この記事では「医療アプローチ」と呼ぶことにします。


一方で、人と人との”あいだ”、過去と未来との”あいだ”を繋ぐアプローチを、「生活アプローチ」と呼ぶことにします。


ここからは、一般的には”不健康”と思われている要介護状態の人や認知症のある人、そういう人たちの幸福寿命を、生活アプローチで伸ばす方法を考えていきます。


介護で連続性を取り戻す

本書の中心概念、「幸福」は「あいだ」にある。をベースに、どうしたら介護で”あいだ”を埋められるのか、考えていきます。


”あいだ”は、連続性のある別々のものに存在します。

全く別のものには、”あいだ”は存在しません。

例えば、「りんご」と「飛行機」に”あいだ”を見出すことは難しいでしょう。

”あいだ”を埋めるとは、途切れてしまった連続性を、繋ぎ直す過程といえます。


まずは、要介護状態になることで、途切れがちな連続性の例を挙げてみましょう。

 ①個人因子)認知症によって途切れる、時間や場所、記憶の連続性

 ②人的環境因子)人や社会との繋がりの連続性

 ③物的環境因子)生活環境の連続性


認知症のある人の、時間や場所、記憶の連続性を繋ぐ

認知症の中核症状である記憶力の低下や、見当識障害の影響により、私たちが見ている”時間”や”場所”そして”記憶”と、認知症のある人に見えている”時間”や”場所””記憶”が異なる場合があります。


本人と介助者で違う世界にいる場合には、本人を私たちの見ている世界に呼び戻すよりも、介護する側が、認知症のある人の見ている世界に入っていくことで、本人の連続性を取り戻すことができます。


たとえば、本人が独身時代の世界にいるならば、旧姓で呼ぶことで過去と現在の時間が繋がるかもしれませんし、「ご飯を食べていない」と言うなら、「食べたでしょ!」とこちらの世界の記憶を押し付けるより、「食べてないんですね。お腹空きましたか?」と相手の世界に入って、本人の記憶の連続性を繋ぎ直すのです。


人や社会、生活環境の連続性を繋ぐ

要介護状態になり、介護サービスの利用がはじまることで、関わる人や社会、生活環境が大きく変化する人がいます。


例えば、バスに乗って絵画教室に通っていた人が、要介護認定を受けると同時に、絵画教室をやめて、デイサービスで塗り絵をするようなケース。

経験の長い介護職やケアマネジャーも、陥りやすいのですが、「出かけること、絵を描くことが継続されるので、連続性は保たれている」と考えてはいけません。


連続性を保つためには、”その人にとって”絵画教室にはどんな意味(しあわせ)があるのか知る必要があります。

先生やメンバーとの関係性、絵の種類、描いた絵の活用法…しあわせを感じるポイントは、人によって異なります。

もし、先生との対話を一番の楽しみにしていた人が、バスで絵画教室に通うのが困難になった場合には、デイサービスに通うより、先生と定期的に食事をする機会をつくった方が、人間関係が継続されるので、先生との”あいだ”にあるしあわせを見出すことができます。


しあわせであるための介護

私たちは、もともと幸せになるものなのです。

私たちは、もともと幸せになる存在であり、幸せは「追い求める」のではなく、「見つける」のだと、この本には書いてあります。


要介護状態や認知症になり、時間的、社会的連続性が途切れて、しあわせを見失いそうな人も、適切な支えによって連続性を回復し、”あいだ”にあるしあわせを見つけられます

逆に不適切な介護は、連続性を分断し”あいだ”を消してしまうので、しあわせを隠してしまいます


人類の願いは、長寿から健康、そして今は「しあわせ」へと移行しました。

これからの介護は、しあわせを見つけるための支えです。


途切れかけた連続性を繋ぎ直して、その”あいだ”にある”しあわせ”を、本人が見つけるための支え「しあわせであるための介護」をこの記事のまとめとして、私から提唱します。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

「しあわせであるための介護」を一緒に学び、実践しましょう。

これからもマガジンで学びを共有していきますので、よかったらフォローをお願いします。



立崎直樹







この記事が参加している募集

#読書感想文

189,330件

サポートいただいたお金は、介護医療現場で奮闘するスタッフの育成のための活動資金に全額充てさせていただきます。 サポートを通して、次代の介護スタッフの育成に参加しませんか。