KDPで本をつくってみた。グーテンベルク以来の出版革命かも?
↑ タイトル画像(校正を取ったら「再販禁止」の文字を乗せた帯がドン!)
う〜ん、何故? これについては後で書きます。
まずはKDPとは何か
今回は、KDP(キンドル・ダイレクト・パブリッシング)について、なるべく良い点をあげて紹介したいと思います。欠点はあるけれど、仕組みとしては素晴らしく、多くの人がこれを使って本を出したらいいな、と思うので。
まずKDPとは何かですが、ペーパーバック(ソフトカバーの紙の本)とKindle本をつくるための、Amazonが運営するセルフ出版サービスです。Amazonにアカウントがあれば、誰でも、無料で自分の本がつくれ、出版・販売ができます。ISBN(国際標準図書番号)は、自分で用意(購入)しなくとも、Amazonが無料で付けてくれます。
*Amazonにアカウントがない場合は、KDPのアカウントを作ります。
葉っぱの坑夫は、これまでオンデマンドの紙の本やKindle本を代理店通しでつくってきました。が、今回、新刊を出すにあたって初めて、KDPのサービスを使ってみることにしました。
KDPを試すことにした一番大きな理由は、ペーパーバックの本について言うと、出版前に校正が取れること、そして出版後には著者(版元)が、印刷原価(+送料)で本を購入できることでした。これまでは一般購入者と同じように、Amazonのサイトで、定価で買うしか方法がなかったのです。ごく最近になって代理店通しでも、定価より少し安く買うことができるようになりましたが、やはりマージンがあるので、印刷原価というわけにはいきません。(この料金だと、一般書店に本を卸すことが難しくなる)
Kindle本の方も、Amazonのみで販売する「Kindleセレクト」に登録すれば、ロイヤリティを70%まで増やすことができます。代理店通しと比べると大きな差になります。
現時点では、今後の出版に関してどちらを選ぶか(代理店通しか、KDPか)決定したわけではなく、KDPで出版するとどのような利点があるか、シミュレーションしているところです。
アメリカのKDPとの比較
実はこのKDPの仕組みのアメリカ版は、以前に使ったことがありました。オンデマンド本の場合、日本では版元も定価でしか買えないので、一般のリアル書店に本を卸すことができませんでした。それでアメリカのKDP(当初は傘下のCreateSpace)で本を制作し、それを印刷原価+送料で購入して、日本の書店に卸していました。本は重量がありますし、海外輸送なので送料もかなり高くなります。それでもこちらの利益を最低限に抑えれば(あるいは利益抜きにすれば)、ギリギリ書店に卸す目処がたちました(葉っぱの坑夫は非営利活動なので、利益抜きという選択肢もときにあります)。
ここにきてやっと日本でも、KDPでペーパーバックの本が作れるようになったので、アメリカの仕組みを使う必要がなくなりました。というか、実は少し前から、アメリカのKDPでは日本語の本は制作できなくなっていました。何故???と怒り心頭でしたが、日本にKDPを導入するための準備的な措置だったのかもしれません。
で、晴れて、日本でもKDPの仕組みが使えるようになり、ほぼ(8割くらいか)、アメリカの作家や小さな出版社と同じように、自由に本が出版できるようになりました。この「8割くらい」というのは、日本語の本については、出版・流通や制作過程に制限がかかっていて、そこには「日本の出版業界を守るため」という理由も含まれているように見えます。
そうであっても、この仕組みは素晴らしく、日本でも個人や小さな出版社が有利な条件で本を作り、出版し、販売することが可能になりました。
Kindle本をつくる
これを読んでいる人で、KDPでKindle本を作ったことはあるよ、という方は結構いるかもしれませんね。どちらかと言うと、Kindle本を作る方が、ペーパーバックのオンデマンド本を作るより、手軽かもしれないからです。
Kindle本の場合は、Wordなどで原稿を書式設定すれば、そのままKDPのサイトから入稿できます。Wordのスタイル設定に慣れていれば、それほど難しいことはないと思います。表紙画像もjpgで用意すればOKです。
以前は人から教えられて、ボイジャーのウェブサイトにあるRomancerという変換機能で、Word原稿をEPUB形式に変換していました。それが最近、ボイジャーがシステム変更をしたため、有料サブスクリプションになってしまい、どうしたものかと悩んでいました。
そんなタイミングでもあったので、KDPで簡単にWordから直接Kindle仕様に変換ができるのがわかり、ほんとうにラッキーでした。この仕組みが優れているのは、入稿後、サイト上にあるプレビューを使って、実際の表示状態が確認できるところです。タブレット、Kindle端末、スマートフォンと3種類のプレビューが可能です。
以前からあるダウンロードして使うKindle Previewerというアプリより、表示が正確であることが今回わかりました。KDPのプレビューページからダウンロードした生成ファイルは、Kindle PreviewerではNCX目次(端末の画面上部にある、どのページからでもアクセスできる目次)の項目が空になっていました。端末本機にファイルを送信した場合も同様で、どの端末でもNCXは表示されませんでした。
しかし実際にはNCX目次は生成されていて、サイト上のプレビューでは表示できました。つまり、KDPサイトのプレビューさえ確認しておけば、ほぼ大丈夫ということのようです。
というわけで、KDPでKindle本を作るのは、Wordの知識があればなんとか大丈夫ではないでしょうか。ヘルプページのマニュアルを参考にしながら作成するのがいいと思います。(Mac用のファイル作成はこちら)
紙の本をつくる
ペーパーバックの本を作るのは、Kindle本を作るより、少し面倒なところがあるかもしれません。出版や本作りについて多少の知識があれば、それは大いに役立ちます。が、それがなくても、そこまで難しくはないので、やり方次第かなと思います。
本に関する知識と言っても、たとえば本を構成する要素として、表紙や扉があり、本文があって、そこにはノンブル(ページ番号)が付き、最後には奥付けのページがある、といったことです。縦組の本であれば右開きになり、横組の本であれば左開きになる、とか。手持ちの本をじっくり観察すれば、そこから知識は得られます。
ペーパーバックの本は、入稿後、データがアマゾンにアーカイブされます。注文があるまではデータのままです。注文が入ると、そこで初めて印刷にかかります。1冊単位です。それでオン・デマンドと言うわけです。アマゾンで印刷された本は、アマゾンが注文者に送ってくれます。著者は入稿したらあとは何もしなくていいのです。送料など一銭もかからず、在庫を持つ必要もなく、後で売り上げ報告を確認すればいいだけです。
ペーパーバックの本は、アマゾンの規定に沿ってPDFに変換して入稿します。InDesignなどのデザインツールで制作してもいいですし、KDPの規定に従ってWord(Windows、Macintosh)やPages(Macintosh)でも原稿指定ができます。
葉っぱの坑夫では、これまでグラフィックデザイナーの人に全面的に頼むか、自分で作るときはInDesignで制作してきました。InDesignはAdobeのデザインツールで、現在はサブスクリプション方式で年間、または1ヶ月単位で利用できます。使いやすい優れたツールだと思いますが、習得には少し時間がかかるかもしれません。
KDPではWordやPagesで入稿データが作れる、ということなので、どんなものか、試しにやってみることにしました。わたしはマシンがMacintoshなので、Pagesを選びました。
上の画像「ペーパーバックのフォーマット」のところを見てもらうとわかりますが、「本文原稿のフォーマット」「表紙ファイルのフォーマット」のところにある手順に従って、原稿の設定をしていきます。
細かな指定は抜きにして、とりあえずどんな使い心地か試してみました。ノンブルや目次の指定はしていません。テストなので、フォントもとりあえずのものです。入稿データをプレビューすると、左サイドに「品質チェック」があり、印刷仕様に適さない場合は(指定に誤りがあるなど)、赤字でエラーの説明が入ります。
*この品質チェックは、AIによるもので数分の内に終わります。
表紙は、KDPサイトにあるテンプレートを使用してみました。「表紙作成ツール」というものも提供されていますが、これは日本では使えません。日本のKDPでは使えないものが他にもいくつかありました。また説明文の単位がインチのみでされていることがあり、自分でmmやcmに変換する必要があります。8割くらいは日本の仕様に変換されているけれど、すべてではない、ということです。日本のKDPはアメリカのKDPの翻訳版ということです。
表紙を作るには、独自に制作した表紙ファイルを入稿するか、提供されているテンプレートを使います。このテンプレートがなかなか良いです。「印刷用の表紙計算ツールとテンプレート」というものがあり、順番にプルダウンメニューで自分の表紙形態に合う項目を選択します。「綴じのタイプ」からペーパーバックかハードカバーを(ただし日本ではペーパーバックのみ)、本文の印刷は白黒….という具合です。下の画像の左サイドの「本の情報の入力」というところです。この欄の一番下の「テンプレートをダウンロード」で自分の表紙のベースファイルが入手できます。
テンプレートは表紙、背表紙、裏表紙が1枚になった画像ファイル(PNGまたはPDF)で、これを使用して表紙画像を置いたり、タイトルや著者名のテキストを入れます。画像の解像度は300dpi以上、RGBカラーをCMYKに変換する、など注意事項が細かく説明されているので、きちんと読んで作業する必要があります。背表紙に文字が入れられるのは79ページ以上。それ以下の薄い本は背文字なしです。表紙ファイルができたらPDFファイルに変換します。これが入稿ファイルになります。
やっていて一つ問題になったのは、表紙を作るときの画像エディタ。Macに付属のプレビューはレイヤーが扱えないようで、出来上がったファイルから、ベースに敷かれているテンプレートを隠す(非表示にする)ことができません。またわたしがネットで使っていたPixlrという画像ソフトは、無料版では容量制限があるため、実寸での作業ができませんでした。それでDesign by PhotoDirectorというアプリの無料版をダウンロードしてみたのですが、上の画像で分かる通り、ウォーターマークが入ってしまいます。
これまではInDesignで表紙も制作していたので、なんの問題もなかったのですが、このテンプレートを使うには、画像エディタのアプリを探す必要がありそうです。レイヤーを非表示にするだけなので、できれば無料のもので、容量制限がないものが好ましいのですが(ウォーターマーク抜きで)。
このような細かい障害は、制作の中でいろいろあると思いますが、やっているうちに対処方法が見つかり、なんとか解決できることも多いです。せっかくのセルフ出版なので、無駄な経費は最低限に抑えて、自分の頭と労力でカバーするのがいいと思います。大変というより、これもうまくいけば、なかなか楽しいですよ。
わたしが上の例でやったように、ザッとしたものを作ってみて、おおよその感じがつかめたら、細かい規定や指示に従って、最終形まで詰めていけばいいと思います。ヘルプページには、細かい説明があるので、やりながら少しずつ理解していけば、なんとか形になるまで行き着けるんじゃないでしょうか。多少の根気はいりますが、本が作れると思えば楽しいし、一度できてしまえば、次は楽です。
作り方がわかってくれば、どんな本を(あるいは中は罫線を引いただけのノートブックでも)作りたいかのアイディアが、いろいろ湧いてくると思います。
ところでこの記事の冒頭で書いた、校正を取ったら「再販禁止」の文字を乗せた帯がドン!ですが。「校正本を売り物にされたら困る」ということなのか、よくわかりませんが、この帯のせいで精緻な校正が不可能になる、ということだってあり得ます。半透明とはいえ、帯で隠れてしまう部分があるからです。
これは日本のKDPのやり方で、以前にアメリカのKDP(KEPまたはCreateSpace)で校正を取っていたときは、最終の白紙予備ページに、「Proof」の印字がしてありました。これなら本の見映えに影響しません。日本ではこの方法ではダメっていうことのようです。
なぜ表紙に帯と文字乗せなのか、考えてみたところ、本をKDPで作ったら、必ずAmazonでその本を売ってほしいということなのかな、と。そのためのシステムなのだから、「作り逃げ」みたいなことを防ぐ意味で。つまりKDPの仕組みを使って本を作り、それを商品として世に問う(Amazonで売る)ことをせず、なんらかの理由で私物としてのみ利用するといった。
校正刷りは製本してあるもので、実際の商品と同じです。Amazonから校正を購入する場合、印刷原価+送料で、著者用コピーを買うときと同じです。本が必要(献本やリアル書店に卸すため)なら、著者用コピーを買えばいいのです。数に制限はないのですから。(一度に注文できるのは、999部まで。必要であれば、2回、3回に分ければよい)
本が売れたときのロイヤリティ
さてこうしてKDP仕様の本が出来上がったとしましょう。あとは「出版」というボタンを押せば、さほど時間を置かずに販売が開始されます(通常72時間以内)。
KDPの仕組みでは、初期投資なしで、本が売れたときに、アマゾンへの支払いが発生します。
ペーパーバックの本の場合の利益:
小売価格の60%から印刷コストを引いた金額が、著者・版元に支払われます。1000円の本であれば、600円ー印刷コスト=ロイヤリティです。40%はAmazonの取り分です。印刷コストはページ数 X 2円+175円なので、100ページの本であれば、375円。それを1000円で売ったとすれば、600円ー375円=225円のロイヤリティとなります。
Kindle本の場合:
標準的なロイヤリティとしては、35%となるようです。KDPセレクトに登録すれば、70%のロイヤリティが適用されます。KDPセレクトというのは、発売後、90日間の無料プログラムに参加する仕組みで、Kindle Unlimitedの対象商品になります。これはUnlimited登録者は0円で本を読める仕組みです。著者は、利用者の既読ページ数の割合に応じて、分配金が支払われます。
ただしKDPセレクトは、パブリックドメインの作品には適用されないようです。誰の所有物でもなくなった著作を利用、再生させるのですから納得はいきます。著作権フリーになった作品、たとえば夏目漱石の小説も、英語に翻訳した場合や、一定量の解説を加えた場合には、別の著作権が発生するため、セレクトの対象になることはあります。他にも細かな取り決めがいろいろあるようですが、ここでは省きます。
出版革命、あるいは市民革命かも?
ごく大まかな説明ですけれど、KDPで本を作る魅力は伝わったでしょうか。詳細はKDPのサイトにいって、ヘルプトピックのところを読んで、全体を理解するのがいいと思います。
15世紀にグーテンベルクが発明した活版印刷技術から500年。KDPでの本の出版は、パソコンによるDTP(デスクトップ・パブリッシング)の行き着いた先、成熟の頂点であり、現時点での最終形のように見えます。
パソコンによる本の制作、インターネットを通じたデータ入稿、それをアーカイブするクラウド上のデータ倉庫、オンデマンド印刷機による注文ごとのデータ出力による物質化(ペーパーバック)、あるいは端末へのデータ配信(Kindle)。KDPの仕組みはこういった技術革新によって、時間の経過とともに進化してきました。オンデマンド印刷機一つとっても、20年前は表紙も本文もモノクロのみの印刷で、コピー機に近いものでした。その頃に、葉っぱの坑夫では、オンデマンド印刷の草分けである京都の印刷屋さんで、モノクロの小さな本を数冊作りました。
現在、KDPでは標準カラーに加え、本文用のプレミアムカラーも提供しています。
日本の本文化の中では、オンデマンド印刷&出版に対する関心や理解、評価はまだ低いかもしれませんが、わたしから見ると、これは21世紀の技術環境が整ってこその出版革命のように思えます。個人や小さな集団にとっての利益が大きいことを考えれば、一種の市民革命とも受け取れます。
KDPのシステムは、これまでのデータ入稿を簡略化し、誰もが手軽に出版できるようなやり方に変えました。たとえば、入稿時に提出する「書誌情報」も、日本では(出版業界の慣習なのか)、エクセルの表組みの小さな一コマの中に、3000字くらいの内容説明をHTMLのタグ付きで入れる必要があります。間違いが起こりやすい、非合理的な方法です。KDPのシステムでは、一般社会の申請書のように、空欄を文字で埋めたり、プルダウンメニューから選択すればいいだけです。
KDPのシステムが日本語化され、ほぼ全面的に利用できるようになったことで世界標準並みになり、日本の小さな出版が飛躍的に進化したと言えます。
飛躍的といえば、KDPで作った本は、ペーパーバックでもKindle本でも、世界発売が選択できます。AmazonとKDPがある国々で、注文があれば配信、またはオンデマンド印刷によって、時差なく読者に届けられます。つまり本の原稿データは、世界のどこからでも引き出せる仕組みのようです。日本で制作されたペーパーバックの本が、スペインでもドイツでもクラウド上にアーカイブされているデータから印刷されるということです。これはちょっと今までになかったことだと思います。(これまでもKindle本は世界発売が可能でしたが、PODは日本にKDPができたことで初めて(特別な申請抜きで)可能になったのだと思います)。
これにより日本人が、英語で、あるいはドイツ語やイタリア語で本を出す場合にも、世界各国に本が届きやすくなる可能性がありそうです。これも将来十分起こり得ることなので。
葉っぱの坑夫の新刊KDP本
最後に先週末にKDPを通して出版した、葉っぱの坑夫の新刊を紹介します。
小さなラヴェルの小さな物語
作:コンガー・ビーズリー Jr. 絵:たにこのみ
訳:だいこくかずえ デザイン:⻆谷 慶
156 × 234mm、144頁
ペーパーバック(kindle版 ¥500もあります)
税込価格:¥1,320 2023年3月18日発売
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