ハピバト!第005話 アバター制作権
HAPIBATO!「Episode 5 Avatar privilege」鈴山八広
初めてのバーチャルアバターでの配信は大成功!! とは言えないトラブルばかりの配信だったけど、なんとかリスナーの皆にお披露目することが出来た。
オレなんてめちゃくちゃテンション上がっちゃって、思わず電気椅子に座ったフリ遊びを何度もしちゃったもんね。この思い出は瑛斗(えいと)先輩が編集して、動画サイトに載せてくれた。何度見てもウケる。
だけど、パソコンが不調で上手く配信できない日が続いちゃって、瑛斗先輩はめちゃくちゃ凹んでたなぁ。
それでも瑛斗先輩は立ち止まらず、今後どうしていくべきか真剣に考えているみたいだった。俺は非常に嬉しい!!
◇
瑛斗先輩とオレはSHOWLIVEのイベント『オリジナルアバター制作権ゲット』企画に参加した。五十万ポイントを一ヶ月内にリスナーさんから貰うことが出来れば、オリジナルアバターを制作できるというものだ。
例えばこういうイラスト。
アバターはリスナーさんが使えるもので、みんな推しのアバターを使っていたりする。
だからオレ達も欲しいなと思って参加した。
平日は大学に通い、塾講師のバイトをし、夜は配信。配信終了後には瑛斗先輩と「今日の自分達はどうだったか」「次はどんな事を意識していくか」「聞いてくれてる人達に何を感じて欲しいのか」など話し合い、企画を考えたり動画の撮影などを遅くまでやっていた。
毎日忙しくも充実していた。
今は三月。
塾の生徒が卒業するシーズンでもある。
志望校に受かった子、落ちた子。やっぱりどちらもいるわけで。
「落ちたことは残念だったけど、今まで努力したことは無駄ではないし、どう起き上がるかが大事だと思うよ。失敗は成長の大きなチャンスだし、次は、もっと大きな成功を掴めばいい」
落ちるとその事実以外見えなくなって、自分が否定されていると思ってしまう子が多い。
どれだけ自習に来ていても、今までの模試の点数が良くても、常日頃努力をしていても、全てが間違っていたと思ってしまうのだ。
落ちた時にそんな言葉をかけても通り抜けてく子が多いのは分かっている。だけど、いつか思い出して欲しいからオレはいつも伝えていた。
「本当の夢は合格じゃないよね? ならまだ歩ける。止まらないで欲しい。オレは君が歩けるように背中を押してやるから」
そんな風に生徒に伝えていたオレだったのに……。
◇
四月一日のアバター制作権のイベント最終日。
リスナーさんが沢山ギフトを投げてくれた。ギフトによってポイントが加算されるのだ。
『これくらいしか出来なくてごめんね』
『もっと頑張れば良かった』
リスナーさんの言葉に胸がつまった。
そう、ポイントは全然足りない。
そしてオレとは違い、昨日の配信で瑛斗先輩は目標を達成し、アバター制作権をゲットしていた。
「自分のことのようにすげー嬉しかったんだけど、自分の努力が足りず、先輩の横にいてもいいのかな~なんて思ったりして……」
つい弱音を溢してしまう。
「誰の力不足でもなく、純粋な気持ちで応援しているだけだからね。みんなで今後も頑張っていこ」
瑛斗先輩が色々とフォローしてくれた。だけど、応援してくれたみんなの気持ちに応えられなかったっていう気持ちは拭いきれない。だからオレの気持ちを伝えていると、次から次へとギフトが投げられた。
『たくさん投げてあげられなくてごめん』
そうじゃない。
リスナーさんが悪いんじゃない。
悪いのは全部オレ。
努力が足りなかったオレのせい。
他責じゃない、自責なんだ。そんなことを説明した。
「だから自分を責めないでほしい。オレが――」
「うん。だから、リスナーさんもそう思ってるよ。ハチピに自分を責めないで欲しいって。誰が悪いとかじゃないんだよ。今沢山くれるのは、一ヶ月間良く頑張りました、お疲れ様~のギフトだと思う」
「ああ……そういうことか……。うん、それは嬉しい」
でも……。
『ハチピ、お疲れ様!』
『おつかれ~』
このイベントの為に沢山応援してくれたリスナーさんに感謝すると同時に申し訳ないと思った。
自分がもっと配信時間を増やす事が可能だったら……。
自分がもっと楽しい配信をすることが出来たら……。
自分がもっと……。
瑛斗先輩がアバター制作権を獲得した事を凄く嬉しそうにしている姿を見て、素直に喜べないのも嫌だった。
自分の不甲斐無さや本気度の足りなさで目の前が暗く見えていた。
アバター制作権を持っていない自分が否定されているような感覚。
それは、塾の生徒が第一志望の学校に合格出来なかった時と似ていた。
自分は本当にこの場にいていいのだろうか……。
『おまえはこの1カ月間何をしていたんだ?』
『そんなおまえに配信する権利なんかない』
そんな風に見られてるんじゃないか。
誰かに後ろ指を刺されているんじゃないか。
不安が頭の中でぐるぐる回った。
そんな不安を隠しながら瑛斗先輩とオレは今までの話やこれからの話、今回のアバター制作権について熱く語り合う。
『二人の話を聞いてたら泣けてくる』
『話を聞いて泣きそうになっている』
「みんなね、申し訳ないな~って言ってくれるけど、本当、見に来てくれるだけで嬉しいからね」
「そそそ」
「ハチピもよく頑張りました。よしよし」
「やめてくれ、本当にやめてくれ。あとで一人で……アレしようと思ってたのに……。あ~、もう本当やめてほしい」
頭を撫でる瑛斗先輩。
そんなことをされたら涙がじんわり滲み出てくるじゃん。
「いや、八広は本当頑張ったって僕知ってるから」
「あ~……。ヤバイわ。機材がヤバイ。あ~、ハンカチ欲しいな。機材に涙ついちゃう、ははは」
頑張っておちゃらけた感じに言ってみたものの、声は震えていたかもしれない。
『たまには弱さ見せてもいいんだよ』
『ハチピ、大丈夫?』
『まだ星集めている人がいるから配信終わらないで』
リスナーさん達から心配の声も上がっているのに、何も見えない。
怖い……。
恥ずかしい……。
◇
なんとか自分の枠を終わらせ、次は瑛斗先輩の枠に出ないといけなかった。
配信に出るのが怖い。
だけど、出ないといけない。
そこでオレは自分の3Dモデル(アバター)ではなく、初めて自分で作成したアバターを使うことにした。
キャラクターを動かす骨(ボーン)も入っていないし、体全体が光るし、足は地面に沈むし、未完成で初心者まるだしのアバターだ。
そのアバターを使うことでハチピという自分を忘れたかった。
瑛斗先輩が配信しているのを草むらからじっと覗く。
どうしても前に出て行くことが出来ずに遠くでウロウロしていると、誰かがオレに気がついた。
『なんかいる!』
『野生化したハチピ!』
そんな言葉が飛び交い、瑛斗先輩はオレを追いかける。
逃げ回っている内に、なんだか求められているような気がして少しずつ気持ちが軽くなってきた。
「ハチピ捕まえた!」
逃げるのを止めたものの、声はやっぱり出てこない。
オレは恐怖で口を開く事ができないのだ。
だけど、絵文字をだすエモート機能で泣き顔やハートを出して自分を表現してみた。
今の自分はこれが精一杯。
それでもリスナーさんはとても暖かい反応だった。
オレ配信やってて良いのかな。
前に進んでも良いのかな。
そんな風に思えた……。
◇
配信が終わって瑛斗先輩は慰めたりは一切せずに次の事だけ考えるようにしてくれた。
オレの性格をわかってくれてるからこそかなって思う。
「落ちたことは残念だったけど、今まで努力したことは無駄ではないし、どう起き上がるかが大事だと思うよ。失敗は成長の大きなチャンスだし、次は、もっと大きな成功を掴めばいい」
自分が言っていた言葉が蘇る。
まだまだ努力は足りないけど、この経験は自分の成長に繋げるチャンスでもある。
悔しさや感謝の気持ちを絶対に忘れないでおこう。
これをバネにして次は必ず成功させてみせる!!
これから沢山の事に挑戦し、恐れずに前へ進んで行こう!!
あー、今回はオレが後ろ向きになっちゃったなぁー。
だけど次からの配信はいつものハチピで頑張るぞ!!
めちゃくちゃに!!
楽しみながら!!
最後にそう思えた一カ月になった。
サウンドノベル sound novel
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