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覇王樹の歴史 その1

創刊者 橋田 東聲 Hashida Tousei


 (1886-1930)
橋田東聲歌集『地懐』

佐田 毅 著『橋田東聲の研究』(平成13年7月3日刊)

橋田東聲の歌集『地懐』
東聲は、略歴にも記したように、翻訳を初め、農政学や経済学の著書、『万葉集』に関する著作や正岡子規・長塚節などの様々な人物についての書籍を出版している。そのようななかで、『地懐』は、東聲が生前に出した唯一の歌集である。大正5年から大正9年までの総歌数692首を収めている。東聲が、没した4年後、臼井大翼が、『橋田東聲歌集』を出版している。これは、『地懐』およびそれ以後の作品を収めたものである。 『地懐』は、早世した父・母・兄・弟・二人の甥を相次いで亡くした東聲の悲痛な心情が詠われている。また、妻と別居し、離婚した当時の心境も詠われている。
次の歌は、不運の連続のなかでも、ひたむきに生を凝視し、必死に生き抜こうとする姿勢が窺われ、現代人にも、力強く迫ってくる。

橋田東聲の歌


木に花さき陽はうらヽ照る眼をあげよこの天地にかなしみはあらず

立てかけて壁に干したる胡麻の実のおのれはじけて散る頃ならむ

まんまんと湛へあふるヽ朝の湯にめざめうれしきからだをひたす

親馬の道をいそげば霧にぬれて子馬もはしるいななきながら

あさつゆの光の中につつましく葉と葉寄り添ふ言かはすがに

まつとひとり来ぬれば夏の海の潮のはたてに月いでにけり

子なき家のあけくれさびしき裏畑に鶏を飼はなと妻にはかれる

いでて行きし妻をあはれと思ひつつ庭の樹空を見てゐたりけり

かりそめにちぎりしことと思はねど去り行く心つなぐすべなし

おのづから吹き起る風をさびしめり松の林に歩み入りつつ
(柿生善生寺の歌碑の歌)




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