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選歌

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#覇王樹社

選歌 令和6年8月号

選歌 令和6年8月号

白々とかすめる町の窓の辺に木の芽春雨おとなく降れり清水素子

里山に膨らむ樹林のごとくなる思いを秘めて生きてゆきたし田中春代

鴨が去り方丈のやうな池の面のこれからの夏ボクもこれから橋本俊明

江戸の人となりてひと日を歩みたり芭蕉の弟子とわれもなりたり山北悦子

僅かずつ遅れ気味なる卓上の時刻合わせは程好い触り吉田和代

草津本陣遠来の客うれしかり軒に燕の声のひびける渡辺茂子

タイマーを使わず測

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選歌 令和6年9月号

選歌 令和6年9月号

進化などつまらぬことよ捩摺は千年螺旋を咲きのぼるなり高田香澄

餌撒けば真鯛群らがり飛び跳ねる故郷の光一気に集め高橋美香子

空の青海の青にも染まらずに鴎の飛ぶを頻りに見たし田中春代

遺りたる一人も逝きて庭畑の荒るるに任せ悪なすび咲く橋本俊明

捨つるものなきかと見まはす部屋の中あの思ひ出も捨ててしまおう渡辺茂子

本棚の一冊分の透き間闇埋めらるるなく週末が来る臼井良夫

歳重ね不要の人となるこ

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選歌 令和6年4月号

選歌 令和6年4月号

被きたる雪の帽子にさざんかは寄り合うようにくれない灯す(藤峰タケ子) コマ送りするかのように窓越しに真白き富士はぬっと現わる(宮本照男) 赤塗りの水上客船現れる橋の下より龍のごとくに(清水素子)
 
淋しさもとことん辿りつきたればそれが力になるとは言えど(高田好)
 
この時は何を考えていただろう太宰治のグラビアの顔(田中春代)
 
まちがへてアクセル踏めるさながらに饒舌とまらぬ熱燗一合(山北悦子

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選歌  令和5年4月号

選歌 令和5年4月号

恒例の第九聴きつつこの年もとどこおりなく早終えんとす
財前 順士

追ひ焚きのボタンを押した熱い湯にあなたのゐない時空を生きる
高田 香澄

他の人の役に立つとは生くるための杖を手にいれ歩むに似たり
高田  好

夏豪雨あり洗はれて古滝の恥しきまで白き岩組み
橋本 俊明

夕日浴ぶる母と児の背ひっそりと黄昏時の影となりたり
松下 睦子

夕さりてまた降りだしぬしらじらと雪はこの世の讃たらしめよ

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選歌  令和5年3月号

選歌 令和5年3月号

この世には分からぬことの三つ有る寿命と心・生存理由
木下 順造

行く舟の航跡の波の打ち寄せて秋のひとひに心あふるる
清水 素子

ぽかぽかと足先温し細胞が両手を挙げて万歳をする
高田 好

車椅子狭い売店の中に入れ夫は森永キャラメルを買う
玉尾 サツ子

日毎増すコロナ罹患を告げしのち今月の死者数ことなげに言う
永田 賢之助

ウクライナに干支のあること知りたる日冬陽に重き山茶花の紅
橋本 俊明

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選歌  令和5年2月号

選歌 令和5年2月号

現実は現実として老いの身を単独で飛ぶ風をとらへて
臼井 良夫

「好きだったの」写真の君はその通り、彼に寄り添い夢を見ている
鎌田 国寿

わたくしは歩き回る木生きるため枝を張らない自我なんてない
高田 好

何気ない言葉の棘が抜け切れぬ 外は大空翔んでみようか
高橋 美香子

怠り来し墓参コロナの言ひ訳の子供じみゐて帰路の寂しさ
橋本 俊明

褄を合わせてみても綻びの見えてくるのも人間だから

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選歌  令和5年1月号 

選歌 令和5年1月号 

ひそやかに降り来る白き秋の風聞きつつ庭の草を取るなり
青山 良子

久に見る天の青さに吸われたる心の隅の小さき黒点
上村 理恵子

孤のつく字みな淋しいと友が言う遠き日輝く孤独ありしに
児玉 南海子

空気読むこと出来るらし餌やるなと書きたる駅に鳩来なくなり
高田 好

もて余す時間か老ら陽だまりに二人・三人また一人増す
広瀬 美智子

汗たりて草とるよりもなお辛し取れずして庭ながめいる身の
藤峰

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