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選歌 令和6年8月号

白々とかすめる町の窓の辺に木の芽春雨おとなく降れり

清水素子


里山に膨らむ樹林のごとくなる思いを秘めて生きてゆきたし

田中春代


鴨が去り方丈のやうな池の面のこれからの夏ボクもこれから

橋本俊明


江戸の人となりてひと日を歩みたり芭蕉の弟子とわれもなりたり

山北悦子


僅かずつ遅れ気味なる卓上の時刻合わせは程好い触り

吉田和代


草津本陣遠来の客うれしかり軒に燕の声のひびける

渡辺茂子


タイマーを使わず測る私の三分間の硬いラーメン

渡邊富紀子


正しさの返り血浴びて振り向けば滑稽だ夜叉は私であった

伊雪佑


就職時「新人類」と揶揄されし吾は六十路も進化の途上

鎌田国寿


百鳥の湖辺に遊ぶ朝ぼらけ鏡の水を過ぎる航跡

木下順造


ザビエルの説教を聞く小鳥たちその絵の中に燕もおりぬ

高田好


祖父母居て伯母と従兄と我が家族この地の上で笑った昭和

高橋美香子


ご夫君の表札今も掛かれどもその後を知らず思ひのめぐる

井手彩朕子


茣蓙を敷きあぐらしながら懸命に杉菜を毟る朝の闘ひ

高貝次郎


熊除けの鈴鳴らし入る蕨山姿見えざる物を恐るる

田口耕生


誰ひとり助けられずに犇々と庭侵し来る篠竹を刈る

高田香澄


午後の日を透かし輝く青かえで見上げるわれの眼休ます

山口美加代


久々の心ゆらゆらこの想い今宵の月に聞いてもらおう

松下睦子


串刺しの鰯の乾物こんなにもデリシャスかわたくしのため

渡辺ちとせ


わが家より移植の紫蘭かずを増し私はここよと花芽のぞかす

青山良子


犇めきて裏庭に育つそれぞれの花に庭木に亡き友のこゑ

斎藤叡子


杉の木に咲き昇りゐし藤の花散りて寂しきわが村に入る

友成節子


日向より部屋に入れば翳り濃く五月の闇のひそみいるらし

髙橋律子


眼をしとぢ影をし追へどやみぬちに白き背びらは形とどめず

石谷流花


グリーンの星も今では灰色で噴水周りが僅かに湿る

一色春次郎


達筆の文字は読めぬがはっきりと「はせを」と分かる芭蕉の手紙

田中章


三井寺の二百余段に息切らす花を見たさの力があった

髙間照子


会うたびに言い争いしが百歳となりたる父に言う言葉なく

玉尾サツ子


男孫はマクドナルドがお気に入り腹を満たして塾へ直行

成田ヱツ子


あの頃の優しさ胸に戻るよう今宵は雲間に星を探そう

三上眞知子






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