見出し画像

選歌 令和5年2月号

現実は現実として老いの身を単独で飛ぶ風をとらへて
臼井 良夫

「好きだったの」写真の君はその通り、彼に寄り添い夢を見ている
鎌田 国寿

わたくしは歩き回る木生きるため枝を張らない自我なんてない
高田 好

何気ない言葉の棘が抜け切れぬ 外は大空翔んでみようか
高橋 美香子

怠り来し墓参コロナの言ひ訳の子供じみゐて帰路の寂しさ
橋本 俊明

褄を合わせてみても綻びの見えてくるのも人間だから
藤田 直樹

生き残りかけ争った人族の末裔われら 今日もミサイルが飛ぶ
山口 美加代

あと幾とせ踏めるやと思ふかがやきも吾にあやふし湖までの道
渡辺 茂子

その痛み二・三週間は続きます 「も」よりも「だけ」と心ふん張る
岩本 ちずる

山茶花はうす紅いろの花散らす手入れなき庭覆いくれたり
浦山 増二

弾みつつ小袖の娘が登場し六人すばやく入れ替わり舞う
清水 素子

燈明のゆらぐ向こうに面輪顕つ姑の命日しずしず暮るる
青山 良子

廃業に更地となりし店跡のえのころ草は寒風に揺る
佐藤 愛子

「私の城下町」を聞きつつ調べゐるアンノン族やイケジョのことを
高貝 次郎

茜射すあしたの景をはつか見し心の震へふとよみがへる
広瀬 美智子

また学校崩壊学級立て直し一日終えてぐったりとする
松下 睦子

冬至にはまだ早けれど柚子十個湯舟に浮かべ思ひ出ほろろ
矢口 芙三恵

虚弱体質ゆえの不安さけ別行動の孤独ふかまり
渡辺 ちとせ

食洗機で洗へぬ食器はいらざると塗り物碗は貰ひ手つかず
成田 ヱツ子

いのこづち抜かんとすればたちまちに衣服に付きて離れ難かり
村尾 美智子

まだスマホ持たぬ子どもは置き手紙「ママへ」の文字の丸み撫でたり
渡邊 富紀子

宵の空大き三日月浮かびたり壊れそうにも鋼の心
仲野 京子

寂しさに世を捨てばやと思ひつつきみありてこそ永らふる身は
石谷 流花

首里城の石段上がる秋の空再び興る願いを込めて
祝 健二

入口に関所のように消毒液、押す、踏む、自動、出す手が惑う
髙間 照子

携帯をかざす人らに混じりいて皆既月食眼にとどめいる
田中 昭子

秋の日のことさら温き石の上希望は持てと伝うるごとく
田端 律子

五歳児は頭に鍵をしたからね 何をしたのか想ひ出せぬと
西原 寿美子

寂しいと綴りし亡母の文のあり若さは罪よ労りもせず
三上 眞知子

少女らは貝殻骨を膨らませ大きな空へ飛び立ってゆく
森崎 理加


覇王樹公式サイトへ