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【観劇】段田安則主演舞台「セールスマンの死」

4月20日、21日の両日(感染対策をとって)PARCO劇場へ舞台「セールスマンの死」を観てきました。

トニー賞、ニューヨーク劇評家賞、ピューリッツア賞を受賞したアーサー・ミラーの代表作「セールスマンの死」。翻訳に広田敦郎氏、演出ショーン・ホームズ氏、そして物語の主人公ウィリー・ローマンを数々のドラマや映画、舞台演出も手掛ける段田安則さんが演じていました。


★物語

1950年代のアメリカ、ニューヨーク。63歳になったセースルマンのウィリーは敏腕セールスマンとして売上もよく、地方を回って活躍していました。しかしやがて彼の得意先も引退しトラブルも増え、成績も思うように上がらなくなってかつてのような精彩を欠いてしまったウィリーは彼の務める会社の若い二世社長から厄介者として扱われるようになっていました。


地方へのセールスの旅からブルックリンの一戸建てに帰ると、そこにはウィリーを愛し尊敬し献身的に支える妻のリンダと、30歳を過ぎても自立出来ない2人の息子ビフとハッピーが待っていましたが、長男のビフとは過去の出来事で心がすれ違ったままでした。「セールスマン」という職業こそが夢を叶えるにふさわしい仕事だと信じてきたウィリー。家、先端の電化製品、愛しい妻、自分を尊敬する自慢の息子たち…確実に手にしたはずの彼の夢はセールスの成績が上がらなくなるともろくも崩れ始めます。家のローンや生命保険の支払いに追われ、息子たちの不満や不安が重なっている彼を友人のチャーリーはなんとか助けようとしますが、やがてウィリーは全てに行き詰まっていきます。

今よりもずっと輝いていた過去の日々、幸せそうに笑っていた妻、あの頃自分をもっと慕っていた息子たち、そして頼りにしていた亡くなってしまった兄のベン。過去と現在の出来事が彼の中で走馬灯のように彼を覆います。そしてウィリーは家族のため、自分のために、ある決断を下す…というものでした。


ベストキャスティングとひとつのステージ上にあるたくさんの時空演出

主演ウィリー・ローマンを段田安則さん、ウィリーを支える妻リンダ役にテレビドラマをはじめ幅広く活躍し輝き続け本格的舞台への出演は25年ぶり2回目となる鈴木保奈美さん、長男ビフをドラマ、歌舞伎・ミュージカルなど幅広く活躍する福士誠治さん、次男ハッピーを映画、ドラマを舞台での活躍も目覚ましい林遣都さん、友人のチャーリーには、映像から舞台まで充実した活動を続ける鶴見辰吾さん、そしてウィリーの幻想の中に登場する兄のベンにドラマや舞台と多岐にわたり躍進を続ける高橋克実さん、さらに前原滉、山岸門人、町田マリー、皆本麻帆、安宅陽子らドラマや映画、舞台で活躍する豪華俳優陣が出演されました。

段田さんの舞台はご自身が演出もされた大竹しのぶさん主演の舞台「女の一生」以来でした。過去と現在と未来、夢と理想、願望と失望、夫である自分と妻、父親である自分と息子たち、そして自分と兄ベンとの会話。その間を歩き、這いつくばっているウィリーを演じた段田さんのお芝居に感動しました。本当に素晴らしかったです。

「ウィリー・ローマン」というすべてを掴んだ自分自身の強い誇りは、消えてしまったと悟るウィリー。胸を張り大声をだし視線を真っすぐに向けていた彼は、妻の不憫さを知り、息子と対峙することを繰り返しているうちに、やがて肩をおとして、ささやくような声とうつろな目つきで猫背になり、物語の終盤を迎えるのですが、そんな彼とその人生をグラデーションのように変化させていた段田さんに圧倒されました。


さらに保奈美さんは妻のリンダの可愛らしさと不甲斐なくなった夫を支えるたくましさを見事に演じ、遣都さんの一家のアイドル的な存在として明るさと危なさを持つハッピーは存在感を残し、誠治さん演じた父親の違う一面を知り解決できない悩みと自分への苛立ちを父にぶつけるビフには涙を誘われ、辰吾さん演じた好きではないと言いながらウィリーを支える友人チャーリーの歯がゆさと怒りの見事な表現に共感し、ずっとウィリーの憧れだった兄ベンの終盤で見せるやさしさと不気味さを演じた克実さんの姿も印象に残りました。

私は観劇回数は多くはありませんが今まで観た作品の中でもベストキャスティングでした。

ひとつのステージにあるたくさんの時空空間。登場人物たちの過去と未来の会話が同じ次元に存在する妙。異なるそれぞれが噛み合い交差する演出の素晴らしくセリフ、タイミングすべてつながり、また舞台セットもすべて良かったです。


…と、書いていますが実は1度めの鑑賞ではなかなかその演出のピースが繋がらず笑、パンフレットを読んで2度めの鑑賞で答えあわせができました。

パンフレットでは出演されるみなさんそれぞれが受け止める「セールスマンの死」があって興味深く読みましたが、この物語と演出の重要な部分を知るヒントが実は高橋克実さんのページにありました。パンフレットの必要性をあらためて知りましたね~笑。克実さんには感謝してます(!)。

ただひとつ、欲を言うならウィリーの父親がどんな仕事をしていてどんな人物だったのかを知りたかったですね…。


★セールスマンとは

ウィリーはある84歳のセールスマンに出会い、彼が亡くなったときにたくさんの人が彼の死を悼んだことでセールスマンは素晴らしい職業だと確信します。けれど70年前に書かれたこの作品では一戸建てや家電製品を購入させられ、ローンを組み、広告に躍らされ、欲望のままに欲しいものや名誉を手にしようと生きるセールスマンを「社会の偏向が生んだ怒れる弱者」として描かれていました。この弱者の嘆きの表現は多くの賞賛を勝ち取り多くの俳優陣により再演されています。

けれど果たしてそれは真実でしょうか。感染症に苦しむ社会を経験して私たちは誰もが弱者になりえるということを知りました。会社や組織に縛られると思うように生きられないなどと嘆きたくなりますが、やっぱり制限やルールがあるからこそ生まれる自由と表現もあると思います。自分の思うように生きる人は縛られていてもいなくても、きっといつも自由です。

『人は強くとも弱くとも、欲望に支配され、執着に生かされる』
ウィリーの背中がそう語っていました。そしてそれを手放せなかったウィリー。彼はなんとも滑稽で愛らしかったです。



そして最後にやっぱり劇場パンフレットは購入したほうがいいな、と思いました笑。



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