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【観劇】山口祐一郎出演 舞台「オトコ・フタリ」

 2020年12月、シアタークリエへ舞台「オトコ・フタリ」を観てきました。

 我らがミュージカルスター山口祐一郎さん☆。今回の舞台は「歌唱」のないストレートプレイでした。祐一郎さんの歌わない演技といえばNHKの2003年のドラマ「女神の恋」や大河ドラマ…でしょうか。どの役もステキで見応えありましたね。


★コロナ禍での舞台 

 今回の舞台の脚本は田渕久美子さん。演出は山田和也さん。祐一郎さんからのストレートプレイをやりたい、というお話の流れもあってこの舞台が実現されたよう。その田渕さんが、「コロナ禍を狙ったワケではないが、ラッキーだった」とおっしゃたのはこのお芝居での登場人物が、山口祐一郎さん演じる画家、禅定寺恭一郎(ぜんじょうじきょういちろう)、保坂知寿さん演じる家政婦の中村好子(なかむらよしこ)、そして浦井健治さん演じる、ある日恭一郎を訪ねてくる素性の知らない青年の須藤冬馬(すどうとうま)、というわずか3人だったため、結果、登場人物の少ない密を回避した舞台になった、ということだったんですね。


★ストーリー 

 幕があくと絵筆を走らせる恭一郎の姿から始まりました。やがてお茶を入れた家政婦の好子が薔薇のお茶といつものように手作りのお菓子を持って現れます。アトリエには大きな白いキャンパスがあるのですが恭一郎がなかなか絵を描かこうとしないため好子がなぜ絵を書かないのか理由を訪ねますが、「愛」をテーマに作品の依頼をうけた恭一郎でしたが「愛」という大きすぎるテーマに迷いキャンパスになかなか描けないでいました。そんなある日、母を探しに来たという青年、須藤冬馬がやって来て恭一郎に「今すぐ母を出せ!」と詰め寄ります。聞くと冬馬の母は恭一郎の元に行くと書き置きを残し家を出たというのですが彼の母をまったく知らない恭一郎は冬馬を追い出そうとします。そんなオトコフタリのやりとりを見て好子は恭一郎が愛のテーマの絵を描けるきっかけになるかも知れない、と思いつきしばらく冬馬をアトリエで預かることを恭一郎へ提案します。同じ空間を過ごす3人。やがて3人それぞれの人生と、それぞれの愛の秘密が暴かれてゆくというストーリーです。


★3人の役者、伝わるメッセージ 

 役者は3人だけ。2人の掛け合いあり、3人の掛け合いと続けばコメディな台詞もシリアスな台詞も分け合い、舞台転換、流れもスムーズでしたしそれぞれの完成されたキャラクターが発する台詞には心躍りました。物語の終盤、家政婦の好子が自分の人生に決着をつけるためにアトリエを後にするとき、冬馬に語りかける表情は恭一郎への複雑な愛にあふれていて、とても素晴らしかったですね。好子が出た後、恭一郎は冬馬に自分の道を見つけてアトリエから出て行くよう諭しますが、冬馬はいつのまにか心地良かったアトリエを去る寂しさとやるせない怒りから、冬馬の想う「愛」を語り冬馬もまた恭一郎を諭します。

 冬馬は「愛」とは、特別なものではなく、遠くにあるものでもなく、身近にある、例えば道端に咲く花だって愛なんだと話しました。そのシーンは冬馬が成長した瞬間でもあり、冬馬の台詞に誘発された恭一郎が覚醒する瞬間でもありました。冬馬の表情も声のトーンもとても良かったです。そして私はこの冬馬の台詞にグッときました。そうか。そうなんだ。日々の緑の色、風の囁き、太陽の光、月の明かり、波の音も、そうか。みんな愛なんですよね。田渕さんのメッセージが伝わりました。

 恭一郎はあの白いキャンパスに筆を入れます。恭一郎の「愛」が筆先からカタチになってゆくのを見届けると冬馬はアトリエを出てゆきました。冬馬が出て行ったことを知り、力が入る筆先。冬馬がよく歌った歌を恭一郎は口ずさんでいました。その背中には寂しさが見えたけれど筆先に迷いはありませんでした。このシーン…いやー。泣けました。泣けました。本当に泣けたんです。

 3人たげのお芝居。感動は3倍でした。


★高度な演技力は喜びの空間へ

 例えばミュージカル、原作が海外の作品など多くのキャストで煌びやかに表現する舞台も大好きですが今回の「オトコ・フタリ」は本当に魅力されました…。2020年に観た舞台でベスト3に入ります笑!さらにあらためて感心してしまったのが祐一郎さんのお芝居の動きと発声の強弱コントロールです。比べていいのかわからないのですが、狂言の人間国宝でおられる野村万作さんが、歳を重ねるとどうしても動きが若い頃とは異なる部分があるが一つの動きをあえて緩めることで、ほかの動きが早く見えることがある、と話されていたのを思い出しました。夕ご飯さんもその動きと表現に全シーンを100%ではなくあえてそれ以下の表現も作り強弱をつけて、物語の軸の部分はより観客に届くような演出をされておられるのかも…と思いました。(ミュージカルの演劇法では常識?なのかな?)

 物語のほんとのエンディングシーンも私好みの笑シーンで、この作品から大切なものをたくさんいただきました。観劇の喜び、空間、時間すべてです。

愛は語り尽くせませんね。舞台愛も。


※声の出演で大塚千弘さんも出演されました。


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