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きっと猫の皮は剥げない

 うちには5歳で迎えて5年の付き合いのおキャット様がいる。世界一愛くるしく、トップアイドルと張れるほど愛想がよく、世界遺産登録も目の前である。しかし、10歳にしてすでに腎臓はギリギリアウトで、歯もほとんど無い。多分膵臓も悪い。限界猫である。

 限界猫はこの春、食欲不振でかなり痩せて正直お別れも決意した。今のところ、点滴や液体食の強制給餌で毎日元気に生き延びている。自宅点滴が効いているのか、食欲はちょっと戻り、体重もちょっと増えた。やはり世界一偉いおキャット様だ。

 闘病数カ月の中で、この限界猫との別れ方について色々はちきれるほど考えた。

 唐突だが、私は生き物の解体がちょっとだけできる。狩猟サークルの末席に居り、免許は無いが獲物の解体、精肉のお手伝いをして生き物のバラしかたを色々学んだ。四足に限らず、哺乳類ならある程度は皮を剥いだりパーツに分けたりをナイフ一本で出来るようになった。そんな特技のせいで、限界猫とのお別れも尻尾の毛皮を形見分けをしてもらおうかと考えたこともあった。しかしまぁ考えただけでやっぱり無理だった。暖かくないふわふわだけがあっても余計に辛い気がした。

 今は取り敢えずせっせと抜けたヒゲを集めているので、少しすれば筆くらいにはなると思う。

 猫のおかげで暗黒社会人ひとり暮らしを切り抜け、結婚した今も幸福の半分は猫でできている。毎日せっせと毛布を揉み込み、腰を当て、額をこすり、媚び転がりながら好意を示してくれる尊き限界猫。通じなくともただ愛して、ずっと忘れない事がこの感情の報いになると信じて励もうと思う。

 いつか来る最期の姿に血の一滴も翳らないよう、きっと猫の皮は剥がない。


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