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2020年3月の記事一覧

ビニール袋が落ちた日

翠色と踊りながら
オレンジジュースを煽って
笑い声をあげようとしたところ
ビニール袋が落ちる
昨夜の喧騒がまだ部屋には残っていて
口に残った味を確かにしようと
冷蔵庫を開ける
オレンジジュースはからっぽだ
へたりと腰を床に落とすと
ぼくはトンネルに囲まれていて
これが絶望ではなくどこにも向かえる希望なのだと
四指に力を入れて体を引き摺る
擦れる膝に感覚がなく
妙に冷静にそれを不思議に思っていると

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ふるえるこども(詩)

雪が散らつく水辺に桜が咲いている。溶けつつある雪の間から顔を見せる緑を見れば春の始まりを思わせるが、梅は疾うに散り、桜も咲き腫れた今は、春の最中なのである。季節外れの雪と流行り病が、知らない名前を紡ぎだす。

こわいものにはひとつずつ、名前を付けましょう。そしたらそれは手のひらの中、あなたのものです。

学者さんたちが名前をつけていく。あなたは、君は、こちらは、これは、

ぼくは、わたしは、と名前

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春雨

肌に纏わりつく春に
安売りのあっぷるてぃーがよく似合う
赤いワンポイントを誇らしげに胸に掲げた少年が
電車を駆ける
それを信じていればいい
暗く陰った車窓にあらゆる瞬間が映り込んでいる
口に含んだ薄い味みたく
もう忘れてしまうよ
雨が降ったら
湿った肌ににおいが残るだろうか
残るだろうか