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小説

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#掌編小説

檸檬

「つまんないね」
私の仕事は商品の陳列を微妙にずらすことである。丁寧に並べられ積み上げられた商品を少しずつずらし、崩壊する寸前のところで手を止める。そして平然と立ち去る。私が店を出る頃に、誰かの体が触れてそれは崩れてしまう。
店員は不快な顔を隠してそれを並べ直す。崩した客は不運そうな顔をして居るだろう。「私の所為ではない、その運命と均衡が悪いのだ。」という風な面構えをしていやがる。そこに流れる瞬間

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佇む

先月、一人の画家が死んだ。彼女は私の友人でもある。

その夜はとても静かだった。訃報は直ぐに公表されたが、朝に近いその夜はとても静かだった。鳥の囀りが聞こえようとする頃、私は呆然として眠りについたのである。起きると、彼女を取り巻く世間は騒がしくなっていた。

彼女の生涯を横断する大規模な個展が開かれるという。しかし彼女が残した作品の数は決して多いとは言えない。その為、彼女の作品の他に、彼女を尊敬す

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もやを抜けると

 靄を抜けると、そこには沢山のガイジンさんがいました。幽霊のような人もいれば、妖怪のような人もいました。石も森も太陽も、そこには様々な人々がいました。目が二つとは限らず、口が一つとは限りません。男のような人も、女のような人も、子どものような人も、老人のような人もいました。陶然としてこの世界を見渡していると、近くで赤ちゃんの鳴き声がしました。右を見ると、そこにはまだ生まれたばかりの小さな赤ちゃんがい

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