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小説

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2019年11月の記事一覧

感覚器官

見渡す限り人はいない。みんな消えてしまった。死体など見たくないから自然に分解されて塵になるようにした。今吸っているこの空気の中には彼らの肉も含まれているだろう。少し嫌な気持ちになる。しかし元々の世界からして、死者の蓄積のようなものだ。海のにおいは生き物の死んだにおいだ。

世界とは一体何を指していたのだろう。それは広いものなのか。小さいものなのか。私はちっぽけな存在なわけでも、大きな存在なわけでも

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信仰

空に雪が降っている。空に向かって。空に向かって。雪が降り、向こうの空に消えていく。私の目の前に冬が見えている。
それは芒の穂綿だ。見えない風に吹かれて空に向かって降っている。向こうの春を見透かして、冬を呼びつけている。思わず私は立ち止まってしまった。この感動は今までここを行き過ぎた多くの人を待っていたであろう。風景に対する感動というのは、それが只私の前だけにあるような感覚からやってくる。だからそれ

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