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ラヴクラフトの怪物たち 上

Lovecraft's Monsters Vol.1
Edited by Ellen Datlow



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世界が再び終わる日 ニール・ゲイマン
脅迫者 レアード・バロン
赤い山羊、黒い山羊 ナディア・ブキン
ともに海の深みへ ブライアン・ホッジ
三時十五分前 キム・ニューマン
斑あるもの ウィリアム・ブラウニング・スペンサー
非弾性衝突 エリザベス・ベア
残存者だち フレッド・チャペル




どんなジャンルの本がお好みかね?

そう問われて、己の好みがなんなのか確実にわかるかい?
ぼくは思う、ぼくが好むものっていったいなんだろう?


アンソロジー、数珠繋ぎ。。。
ストーキング!

ほら、前回さ、シャーリー・ジャクソンのアンソロジー読んださ、そこで出会った作家に会いたくてここにきたってもんよ。
それにさ、あのラヴクラフトを崇拝する者どものが集結したってよ。
こりゃ捨てとくわけにはいかねーんだ。

というわけで、どうよ?
うーーーーん、正直な気持ちを言うよ。
これは同人誌だな。


ラヴクラフトは、神だ。
何が違うかボンクラのぼくにはわかるわけがない神的な何かが絶対的に違っているとしか言いようがない。
どの短編ももちろん面白いんだよ、でもどんな宗教にもよくあることで創始者様とは何かが違うのだ。


ハワード・フィリップス・ラヴクラフト、1890年に生まれた、クトゥルー神話を創る者。
海を恐れ、海洋生物を恐れた者。
魚顔の住民で有名の町「インスマス」の創造者。
お前が一番インスマス面じゃないかッ!と言われなくもないちょっぴり人種差別傾向にある者。

そんな異形な彼が創り出す世界は独特で、上辺だけ見るとまったくもってオタク臭が漂うけれど、彼の文体なのか、時代なのかどことなく怪しげな文学の風が吹く世界観となっているってもんだ。
新潮文庫の南條竹則氏の訳は素的であった。


「新たな恋」を求める者に「数珠繋ぎ」は出会いのきっかけになるんだよね。
ぼくみたいな好みがめんどくさい者はベストセラーよりも「同じ世界を見る者」を求め、ストーカーとなる。
好いた作家が書いたものを追うんだ。

どうも、作家にも系統というものがあるらしい。
ジャンルと系統は違うのだ。
ジャンルは面で、系統は線だ。
ゆえにジャンルで追うと、間違える、例のトラウマ事件にドボンだ。
見た目じゃあわからない。
より安全なのは系統で追うことだ。

ポオが好きなぼくはもちろんラヴクラフトも好きだ(系統)、けれど、彼らが好きだからといって、ホラー(ジャンル)が好きなわけじゃない。
系統で追ったからって絶対安全ではない。
ポオが好きでも江戸川乱歩のエログロはダメで、泉鏡花や夢野久作は大好物、はたまた夏目漱石は読まないけれど、内田百閒は大好物なのだ。
そうは言ってもどの作家のも「夢中」になるものもあれば、それほど入れないものもある。けれどぼくなんか全部が全部総なめにした強者じゃないから偉そうな口叩いちゃあいけない。
そうしてだ、似ていても全くおんなじ世界に住んでるニンゲンなんていやしない、みんな違うウムヴェルトに住んでるんだって、面白く思うね。


それゆえにな、慎重に追わねばいけないよ。
シャーリー・ジャクソンのアンソロジーでレアード・バロンが気になったぼくは彼をストーキングするためにこの本を手に入れた。
彼の書いたのは「脅迫者」。
なぜか、ハードボイルドミステリー風、だ。
ぼくには意味不明なところが多すぎて全然「世界」に入れなかった。
どうも間違えたようだ、ぼくは恋に落ちなかった。
パッと見タイプで声かけたけど、話したらなんか違った、そんな感じよ。

気に入ったのは、ナディア・ブキンの「赤い山羊、黒い山羊」。
山羊乳母に洗脳される子供らにイライラするけれど、あまり説明されない回避できぬ恐怖がジワジワ迫る感じがキミワルくてイイネ。
最後、救いがないのかちょっぴりあるのか微妙なとこもぼく好みだった。


こんなふうにいろんな作家の短編を読んでると、ふと疑問が湧くんだ。
ぼくが好きなものっていったいなんなんだろう?ってね。
「面白い」と、「好き」は違うと思うんだね。

例えば、フレッド・チャペルの「残存者だち」。
すごく面白いんだけど、すごく好きってわけじゃないんだ。
そう、「夢中に」ならないんだね。
SF要素が多めだからか?
でもラヴクラフトにもSF要素はある、コズミックホラーと言われるくらいだもの、クトゥルーとかショゴスとかバリバリ宇宙人だもの。

単に古い時代の作風が好きなのか?
けれど、ぼくはブライアン・エヴンソンも好きだ。


ぼくは、ぼくの「好み」がよくわからない。
ゆえに、「アタリ」を見つけた時のトキメキと喜ビはひとしおなんだ。
ただ、「ジョーカー」を引くとトラウマになるゆえ、命懸けよ。
見た目に騙されちゃいけないんだ。


命懸けで「恋スルモノ」を探す。
命懸けで「愛スルモノ」を選ぶ。
愛してやまないポウくんとも命懸けでつきあった。
なんてスリリングな幸福なんだろう。


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