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闇の奥 ジェセフ・コンラッド

Heart of Darkness
Joseph Conrad


「地獄だ!地獄だ!」


人間様。。。「闇の心」を持つ者。。。


「なるほど、一体どんな地獄を見せてくれるのかね?」

ぼくはニヤリとする。


ぼくは物知らずだ。
そんなぼくはむろんジョセフ・コンラッドを知らなかった。
巨匠と呼ばれるこの作家はポーランド生まれのイギリス人でどうも船乗りだったらしい。
この物語も自分の体験に基づいているみたいだ。
ぼくの大好きなジャック・ロンドンみたいだ。

そんな冒険家というやつは楽しいだけじゃあない。
この物語は主人公マーロウ船長が見た「闇の奥」の独白だ。

19世紀、ネタに事欠かない人でなしの時代。
白人だけが人間だ、黒い奴らはニンゲンじゃねー、ってね。
ひどいもんだよ、「発見」とか言って勝手にどこぞから押し寄せてきた「白い人」に全てを奪われ奴隷にされゴミのように殺される「黒い人」たち。

未開の地に住む野蛮な人々、裸同然の格好で動物のように吠える人々。。。怖い、清潔なみんなは思ったさ。
でもどうかな、船長は思う、おれらだってそうじゃねーか、感情丸出しの馬鹿っぽさこそがニンゲンじゃねーのか、ってね。

実際、ここの黒い人たちは丸出しだ、見た目(体)も丸出しなら、中身(心)も丸出しだ。
白い人のようにピリッと白いシャツ着て髪を撫でつけもしない。
そんなもんが何の役に立つっていうのかね、この泥水でぐちゃぐちゃのジャングルでさ。
そう、嘘をつくのに役立つのよ、「私は潔白な人物である」とね。

「おれたちは、征服されて囚われの身になった怪物ならば、見慣れている。だが、あそこではーーあそこでは、怪物的なものが自由気ままに振舞っているんだ。……歓喜、恐怖、悲哀、献身、剛勇、憤怒ーーはっきりとはわからないがーー真実ーー時間という覆いを剥ぎとられた真実があったことは確かだ。」

あけすけな野生は、ぼくらをギョッとさせる。

未開=野蛮、黒い=邪悪、野生=残忍。
ぼくらドヤ顔の文明人はそう独裁する。
果たして果たして真相はどうかね?
コンラッドさんはそこを刺してくる。
「黒い人」と「白い人」。
真の闇ははどっちに?


「いい連中だったなーー人喰い人種ではあったがーー」

そう、彼らは見上げた高潔さゆえか、究極の飢餓状態にあってもおれたちを喰わねえ!船長は感動する。
実際彼らは高潔だ。
「仲間は食わない」、単純明快だ。
オオカミだってそうだろう?


さてね、マーロウ船長の見た「地獄」っていうのはなんだろうね?
船長は見た、鎖に繋がれ虚空を見つめるガリガリの黒い人を。
船長は見た、不気味に清潔すぎる身なりの太った白い人を。
船長は見た、杭に刺されて干からびた黒い頭を。
船長は見た、ミイラのように横たわる「クルツ」を崇める人々を。


「おぞましいものの魅惑ー-そうなんだ、わかるだろう、いや増す後悔、脱出への希求、それができない自己嫌悪、屈服、憎悪」

そんな絶望にかられた方、クルツ様を讃えるのです、そこに希望があるのです。
絶望は宗教を創りだす。

「クルツ」。
こいつが一級の「闇」であるのは間違い無いのだね。
このクルツ、いったいどういうやつなのか?
船長も、ぼくも思う。
クルツという傑物の噂を聞きながら、ジャングルの奥から出てこない彼のもとへと進むのだが、クルツについて語るものは皆「クルツ教」の信者と思しきやつばかり、クルツに対する恐怖はいよいよ膨らむ。

「あの丸い球は飾りではなかった。一つのシンボルのようなものだった。冗舌なようで困惑的、衝撃的にして不快そのもの。人間にとっては思考の糧であり、大空から陸地を見下ろす禿鷹がいればそいつの餌にもなろう。杭を這いのぼる勤勉な蟻にとっては望外のご褒美か。」

その球とはなんだ!?そう!ニンゲンの首だとも!
クルツ、そんなもんを自分の小屋の周りにぐるりと配置するやつの狂気さ!

いったいどんな邪悪な奴がこのジャングルとそこから生み出された象牙を支配してるんだ!?ややっ!黒い人まで信者にしたらしい、さてはクルツのやつ魔術の使い手か!?

とにかくクルツについてこれでもかっってくらいヒッパルヒッパル、そうして、ついに悪の帝王の登場か!

。。。あれ。
クルツさん、だいじょうぶですか〜?生きてますか〜?
担架の上にミイラのように横たわるクルツ。
えーーーーーーーッ!!!死にかけじゃん!
そう、クルツは死にかけていた。
もはやなんの力もないクルツ。
なのに目だけはギラギラしてる。
そんな寝たきりクルツは曰う、

「自分は膨大な利益が約束されたものを手中にしているーーそう自慢して誇示してやるんだ。そうすりゃ、だれもが寄ってたかってこちらの手腕を誉めそやすさ」

ガキくせー奴だなッ!
船長は思う、ぼくも思う。

そう、「闇の核」なんてそんなもんよ。バカバカしいったらねーんだ。
そう、それが人間、最高にバカバカしい者。


「クルツの旦那ーー死んじまったよ」


「人生とは滑稽なものだ。」

おれの運命も滑稽さ、船長は言う。
そう、ぼくらの運命も人生も全くもって滑稽なんだ。
そう、その滑稽さこそが「地獄」。
読解力の乏しいぼくはそう結論する。


「そして結局、おれはあの墓場のような都市に舞いもどったんだ。そこでは相も変わらず、市民たちがせわしげに道路を行き交っては互いに小金をかすめとったり、悪名高い料理をむさぼり食ったり、体に悪いビールをがぶ飲みしたり、愚劣な夢を頭に描いたりしている。そんな様子を見るにつけ、おれはむかっ腹をたてていた。連中はおれの頭の中にも割り込んでくる。」

そんなふうにぼくらは滑稽な地獄を生きている。
船長はクルツの書類を彼の婚約者に持っていってあげるんだけど、そこではクルツは彼女の「英雄」、彼女の「愛しい人」で、金はないけど多少の才能のある普通の若者だ。そう、クルツは悪魔でも魔術師でもない、ごく普通の男なんだ。
彼女はクルツの最後の言葉を聞きたがる、なんて言ったかって。。。
ぼくらは知っている、



「地獄だ!地獄だ!」



すでに「地獄」で生きている彼女に言えやしねえさ。
船長は優しかった。



「どんな場合であれ、人が味わった経験の生の感覚を正確に伝えるのは不可能だーーその体験の真実味、それが意味しているものーーその微妙にして本質的な精髄ーーそれを伝えるのはやっぱり不可能だ。おれたちはみんな一人ぽっちで生きているんだよなーー夢を見るときのように……」


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