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動物奇譚集 ディーノ・ブッツァーティ

Am 01. Mai

Bestiario
Dino Buzzati

・ホテルの解体
・動物界のファルスタッフ
・ひとりぼっちの海蛇
・いつもの場所で
・空っぽの牛
・川辺の恐怖
・驚くべき生き物
・船上の犬の不安
・狼
・アスカニア・ノヴァの実験
・蝿
・鷲
・英雄(ヒーロー)
・警官の夢
・彼らのまた
・豚
・しぶとい蝿
・進歩的な犬
・日和見主義者
・ティラノサウルス・レックス
・大洪水
・興行師の秘密
・古き友人たちは去りゆく
・憎しみの力
・実験
・敗北
・エンジン付きの野獣
・出世主義者
・衛士の場合
・チンパンジーの言葉
・海の魔女
・舟遊び
・恐るべきルチエッタ
・犬霊(いぬだま)
・動物譚
・塔の建設


「白い皮膚、体のところどころに生えている奇妙な毛、それに、前に垂れ下がった二本の脚。実に気持ちが悪かった。」

地球の独裁者なる人間様をこのように描写するとは!!!

絵も上手いよブッツァーティさん!表紙の絵も彼自身の手によるのだ!
前回の「タタール人の砂漠」ですっかり彼のしもべと化したぼく、また皮肉と滑稽の不条理ブッツァーティ・ワールドへ!

ご覧の通り非常にたくさんの話が入っていて、どれもひどく短くチュルッと読める、けれど、毎日違う動物になっちまった、悪夢を見てるような。。。
「人間とは何者か?」、考えてみようよの哲学的寓話集。

「人間よ、忘れたのか?三十分前、おれはおまえのあこがれの人で、おまえの父なる神だった。おまえはおれを王のように崇めていた。それなのに、今はおれを足蹴にするのか!」

引っ越してゆく家族に忘れられ、閉ざされた家でひとり死んでゆく犬。
屠殺のために絶食させられ苦しみで泣き叫ぶ牛。
動物実験で奇妙な生き物を生み出すあの国。
忌まわしい蝿を根絶させる例のスプレー。
ある日突然イヌになっていた警官。
共産主義のお隣さんと仲良くなったブルジョワジーなイヌ。
ティラノサウルスに踏まれぺったんこになる村。
絶滅する犬たち。
愛犬を殺した少年を殺す世界の主。
日々行われるラットいじめ。
人間に出世した犬。
ネズミに乗っ取られた会社。
何となく塔をたてる男。


「だが彼は、もう年老いて、疲れて、何も望んでいなかった。もう幸福など何の役に立つだろう?」

ああ、シニカル。
ぼくら、どんなもんだい!の人間様は滑稽だよ?
動物目線で、どこまでも自己中な人間様を冷ややかに観察してみようよ。
世界が歪んで違った風に見えるかい?

動物対人間の構造にあるこの世界にいるとさ、やはりね、動物派(己は残念ながらニンゲンなのに)の宿命として、人間嫌いになるんだよ。
人間様っつーのはほんとどうしょうもなく貪欲でえげつないもんだから、常に何かしらの動物をひどい目に合わせるってもんだ。
動物はいいようにされるしかない。。。

そんな立場の弱い動物が優位に立つこともあるとか?

DDT。
あの有名な泣く子も黙る農薬だ。
レイチェル・カーソンの「沈黙の春」が出版されるよりも早く書かれた「蝿」と「しぶとい蝿」。
どんな猛毒でも耐性によってスーパー蝿を生み出すという皮肉。
すげーぞ、ハエ!すげーぞ、生物!
ぼくなんか沈黙の春のせいで農薬にビビるあまり、ホームセンターの農薬コーナーに近づけもしないってもんだ。
農薬成分のない除虫菊蚊取り線香使って蚊に刺されまくったっけ。
今の世の中の仕組み上「薬物」なしには生きてゆけないけれど(それで人間様の金世界は回ってるからね)。。。

「人生とはそういうものなのですよ。素晴らしいものはひとつひとつ私たちを置いて去ってゆく。前へ進めば進むほど、私たちは独りになります。二年前には蝶がいなくなりました。でも、それに気づいた者はほとんどいません。昨年は雀です。覚えていますか?そして今は、もっと悲しいことに、犬たちがいなくなったのです」

まあ、とにかく、いろんな面から人間様のことを反省させられる話が満載だ。
もし、自分も明日ニンゲン以外の動物になってたら、この破壊的な種をどう思うだろう?虐待者人間様から逃げられる場所なんてもう地球には残されていないんだ。
ニンゲンを愛するように作り替えられたイヌのようにどんな虐待されても人間様を愛せるのかな?


いや。。。ぼくには無理だよ!ぶたれるだけでもごめんだもの。

ぼくら、ちょっと反省しないとね、もっと弱者の身になって考えなきゃね。
ほら、ぼくらが毎日消費する商品もさ、どれだけの実験動物の死骸の上にここに存在するかをさ?ホラーよ?

ポウくんと暮らすようになって、リアルにポウくん目線で世界を学ぶようになると、普通だと思ってたものが急に不思議に見えたり怖くなったりするもんだ。
ポウくん教授は安い授業料でおバカなぼくにご指導くださる。
ほんにありがたいことじゃて。


「それは、人間中心主義の解体、人間本意の物の観方の脱中心化である。」

「ブッツァーティにとって動物は、むしろデカルト派が主張するような、精神を持たず自動的に反応する単なる機械などではけっしてなく、世界に対しても、死に対しても豊かに開かれた存在なのである。」
                      
                    
 ー「訳者あとがき」より


すげー言葉だ!


「そのとき初めて、アマディーオは理解した。そのわずかなパンでは何の役にも立たないことを。犬を救うにはもっと骨を折り、家に連れて帰り、そばに置き、ちゃんとした生活を与えてやらねばならないことを。そして、『おいで、おいで』などと声を掛けるのは滑稽でしかないことを。」


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