宅建士試験で40点取って合格するための最も簡単な方法はこのライトノベル小説を読むことです 権利関係編1-3

民法
(相続に関する胎児の権利能力)
第八百八十六条 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。

「そうだ。もしも、宅本春子のお腹の子が助かるようなことがあれば、その子供が宅本健一の遺産をすべて受け継ぐということになる。宅本健一が死んだ後に生まれたとしてもだ」
 成金組長の話に古鉄若頭は、
「それはまた面倒なことになりますな……」
 とつぶやく。
「間違いなく、宅本健一、宅本春子、宅本春子の腹の子を三名ともほぼ同時に即死させたんだろうな? 」
 成金組長に凄みのある眼差しを向けられて、古鉄若頭は、たじたじになった。
「じ、十メートルの高さの崖から車ごと落下ですよ……。車はめちゃめちゃになっていましたし、血が流れているのが確認できました。助かりようがないはずです」
「そうか。それなら、大丈夫だろう。お前のことを信じよう」
「へえ。ありがとうございます」
 古鉄若頭は頭を掻きながら、ぺこぺこしたところで、ハタッと思い至った。
「成金組長。宅本健一、宅本春子、宅本春子の腹の子を三名を殺すと、相続人は、宅本建太郎ただ一人ということになりますよね」
「そうだ。宅本健一の遺産の行方についてだが、同時死亡の推定によって、宅本春子が宅本健一の遺産を受け継ぐことはない。春子の親が相続することはないし、腹の子も死んでいれば相続人にはならない」
「それじゃあ、俺たちは、宅本建太郎を相続人にするために動いたようなもんじゃないですか。こいつのことは消さなくていいんですか? 」
「無駄な殺生は避ける。それが成金組の方針だ。宅本建太郎など放っておけばよい」
 成金組長はそうつぶやくと腕を組んで目を閉じた。古鉄若頭は訳が分からないとばかりに首を傾げる。
「遺言書だよ」と侠元先生。「宅本健一は、すべての遺産を成金組に包括遺贈するという趣旨の遺言書を書いているんだ」
「まさか。冗談でしょう? 」
「遺言書はここにある。自筆証書遺言だ」
 侠元先生はそう言って、スーツの内ポケットから、遺言書と書かれた封筒を取り出した。
「自筆証書遺言は、名前のとおり、遺言者が全文を手書きして、日付を書き、署名し、印鑑を押すことによって作る」
 
民法
(普通の方式による遺言の種類)
第九百六十七条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
 
(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
 
「宅本健一がその遺言書を書いたんですか? 」
 古鉄若頭が目を丸くすると侠元先生は、
「バカ野郎。そんなわけないだろう。この遺言書は、私が書いたのだ」
「偽造じゃないですか……」
「そうだ。偽造だよ。宅本健一の筆跡をそっくり真似れば、自筆証書遺言の偽造は容易い。尤も、自筆証書遺言を有効な遺言にするためには、家庭裁判所で検認をしなければならないが、これは形式的なものに過ぎない」
 
民法
(遺言書の検認)
第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
 
「ただ、心配なことが一つある。宅本健一は七十過ぎのジジイだからな。自分で本物の遺言書を書いていないとも限らない」
 成金組長の言葉に、侠元先生は首を横に振った。

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