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何度でも読み返したいnote5

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何度でも読み返したいnoteの備忘録です。更新は終了しました(2024.6.10)。
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#言葉

謝らないことしかできない。

私の両親は、六十代で地方移住し、いまは夫婦二人で暮らしている。 田舎暮らしも八年目を迎え、もうすっかり、その町の人になった。ふだんは遠く離れて暮らし、年に何回か、顔を見せに会いに行っている。 五月の連休にも、父と母に会いに行った。静かで小さな町には海があり、山があり、広い空がある。滞在中は、いろんな路地を散歩したり、庭でビールを飲んだり、小さな畑でつくっている野菜の様子をみたり、両親にスマホを教えたりして、のんびり過ごす。母の手料理を味わいながら夫婦のいろいろな話を聞くのも

しりとりが繋いでいくもの

昨日の夜、交差点で信号が赤から青に変わるのを待っていたら、遠くから手を繋いだ親子が歩いてきた。 真ん中を歩くのは3歳くらいの男の子で、右手をお母さんに、左手をお父さんに繋がれ、地面を少しだけ浮いたように歩いている。絵に描いたような親子だ。 親子はそのまま近づいてきて、横断歩道の手前で待っている私のすぐ後ろに来た。楽しそうな声が耳に飛び込んできた。 ス・タ・ン・プ! 男の子は「スタンプ」の「プ」に音符マークでもつけたように、語尾を跳ねながらそう言った。 スタンプ?何か

人生を幸福に仕上げるコツはウインナーコーヒーにあるのかもしれない 《会社員》

「こんな簡単なこともできないのか」 会社で言われる度に落ち込んでいた。 私には、"簡単なこと"ができない。 ・・・ およそ10年前—— 特に栄えてはいないが、田舎とは言えないような町。ほどほどに人々が笑い、青ざめて見える。涙を忘れたかった日々。風に流され、空き缶が不気味に音を立てながら転がっている。 駅前の混雑も落ち着き、会社員たちが概ね出勤しきった午前10時半頃、私はゆらゆらと町を歩いていた。 太陽があまりに目にしみる。 私はくたびれたスーツを身にまとっていた

母と歩けば。

実家を出て二十数年が経つ。 気がつけば、家族で暮らした年月よりも一人暮らし歴のほうが長くなっている。 私もきょうだいも巣立ち、両親は六十代後半で地方へ移住し、今はそれぞれがそれぞれの場所で生きている。 そんな家族も、毎年お盆とお正月には全員で集まる。 両親の家に集合して、たくさんしゃべって、さんざん食べて飲んで、賑やかに過ごす数日間。その楽しい時間の中で私がいつも思うのは、「もう二度と、家族みんなで住むことはないんだな」ということ。 そりゃそうだ、きょうだいにはパートナーが