私をバンドに誘ってくれたy へ

私をバンドに誘ってくれたy へ

 久しぶりだね、元気?もとから淡泊な関係だったけど、大学生になって余計にそれが強まったね。誕生日に連絡とるくらいかな。お互いインスタもそんなに更新しないし、どんな感じで過ごしてるのか分かりません。

 知ってるのは、大学生になってもバンドを、ギターを続けていること。場所は違えど、私たちはあの頃と一緒で同じことに熱中してる。

 高校一年の秋、ボーカルを募集していたツイートにDMを送ったのが私。まだ興味程度だった私を、しっかり誘ってくれたのがy。同じ高校に通っていながら節点もなく、顔も知らなかった私たち。それを繋げてくれたのが、バンドだったね。

 結成当初、私はボーカルとして参加していたけど、みんなが必死に楽器を練習している中で歌うだけの自分に価値を見出せなかった。だからyに相談して、私はキーボードを始めた。それも、イレギュラーなショルダーキーボード。憧れのキーボーディストが使っていたのと同じものを購入して、それ来私の友だち。

 ショルダーキーボードを背負った私の役割は、足りない音を補充すること。キーボードのない曲でも、無理矢理ねじ込んで音圧を上げた。みんなと一緒に練習するのが、すごく楽しかった。

 二年の夏、ドラムが脱退した。彼女は、本当にやりたいことを追求して、軽音部を去った。引き止められなかったけど、私たちは史上最大のピンチに陥ったね。結局その後ライブハウスに出ることはなくて、ただただ部活内で練習して合わせるだけだった。それはそれで楽しかったけど。

 転機が訪れたのは二年の冬。予餞会のステージに立つために動き始めた頃。ドラムがいないままでは駄目だった。そこでyが思い出したのが、めちゃくちゃドラムが上手くて可愛い後輩のこと。人見知りなyは、私を引っ張って一年生の教室まで行ったよね。私を連れて行ったくせに、勧誘は自分一人で成し遂げちゃうし、いや、私必要だったかなあの時。

 後輩を迎えて新体制で挑んだ予餞会は大成功だった。選曲も上手くいって、初めての体育館ライブだったけど、本当に楽しかった。味、占めちゃったよね。

 そして最後のステージ、文化祭。私は毎年ダンスでステージに立っていて、二年の頃までは1人1ステージのルールがあったから、私一人で辞退するしかなかった文化祭。代役のボーカルを見て唇を噛んだ一年前の夏。みんなに迷惑かけといて、ダンスでも成果を出せなかった悔しさは、しっかり一年引きずったよ。
 だから、三年のときルールが改訂になったのは、私たちのためだと思って疑わなかった。

 毎週スタジオで合わせて、何度も何度も連絡を取り合いながら練習して、何度も何度も観客を沸かせる方法を考えて、迎えた当日。y、腹痛。駅から徒歩10分の道すらままならず、駅前のコンビニへ駆け込み。先が思いやられたよ、本当に。でも、そこで厄は全部払ったつもりでもいた。

 リーダーがそんなんだから、周りがしっかりしないとね。ここまで強い想いで走ってくれたリーダーに、私たちがきちんと答えないと。
 胃腸炎になったベースも奇跡の復活を遂げた訳だし、前日のスタジオで折れたスティックも新調したことだし、yの腹痛も対峙したとこだし、流石に壁はかなり超えたよ。

 出番は一番。トッパー。観客はちらほら。でも、間違いなく私たちを見に来てくれた人たち。友だち。後輩。いっぱいいる。大丈夫。

 円陣を組んで始めたところから全く記憶ない。実は。ステージを走り回ったような気がするし、MCが滑ったような気もする。ファンサしたつもりが気づいてもらえなかった気もするし、カメラに向かってウインクした気もする。どうでもいいことはほんのり残っているのに、演奏の記憶がない。

 終わってから友だちに言われた。
 「最後の言葉めっちゃ感動したよ。はのとたちに投票するからね。」

 そっか、届いてたんだ。よかった。

 そう思ってyと笑った。綺麗な笑顔だったよ。最高だった。yの表情に、全部現れていた。演奏に悔いは残ったかも知れない。でも、感情は全部ぶつけたよね。出せたよね。
 楽しかったね。

 観客投票の三位までが出場できる後夜祭で、私たちの出番はなかった。こっそり順位を聞いたら、惜しくも四位だった。そっか、そうなのか。
 私たちの青春は、終わったんだ。

 なんとなく少し気まずくて、しばらくは顔を合わせても俯いたままだったよね。若いね。それ自体も、最早青春だよね。
 そんな日々は長く続かなかったし、私たちは結局、それぞれのロックスターに燃える、仲間だった。

 私に青春をありがとう。一緒に頑張ってくれてありがとう。いつも先陣切ってくれてありがとう。私を一員に迎えてくれてありがとう。

 大学でもバンド頑張ってるからさ、私、去年新人賞とキーボード賞の二冠とったんだよ?この私が。だからさ、いつか、見に来てよね。私にも、いつか見せてよね。

 誕生日1日違い縁は、これからも大切にしていこうと思います。

 すぐおなか壊す癖は治りましたか?身体に気を付けて、頑張って生きていきましょう。


2021年2月20日 はのと

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