私を頼ってくれたa へ

私を頼ってくれたa へ

 元気?定期的にZOOMで顔は見てるけど、その定期も半年に一回レベルだから最早定期じゃないかもね。

 aと出会ったのは高校一年の春。同じ部活に入って、そこが私たちの出会いの場だった。先輩方の見よう見まねで色々作業して、でも自分たちで何かを作り上げることは出来なくて。だけど、みんなと毎日部室で顔を合わせることが楽しかった。

 でも、夏休みが明けた頃から、空白の一年が始まったね。私の落ち度。

 中学生の頃から腰が悪くて、定期的に通院していた私は、それを理由に部活に顔を出さなくなった。それは勿論理由の一つ。だけど、どこか面倒だと思っていた自分もいた。合理化しては帰宅する日々。みんなは、aはどんな気持ちだったのかな。後から聞いたら相当ご立腹だったみたいだね。当然だね。

 その頃の私は、毎日時間を持て余していた。帰宅してすぐ医者に行ったところで、結局夕方には家に帰っているのがオチ。何もすることがなく、怠惰な日々だった。時間はあるのに勉強はしないから、成績はクラスの真ん中くらい。特異な英語でイキってたけど、正直それだけだったよ。

 aとはクラスも違ったから、なおさら接点はなくなった。Twitterで見るくらい。実際に顔を合わせることはなかった。合わせても、その事実すらを消そうとしていた。

 そして二年生として学校に向かったその日。私は変わることを決心した。不良がいいことすると必要以上に褒められる効果そのもの。でも、私は分かってたよ。いいことなんて何もしてない。所属している部活に参加するなんて、息をするのと同じくらい当たり前のこと。人間以下だった私は、人として当たり前のことから始めようと思った。

 二年でクラスが同じになった部員のyにまずは声をかけて、きっかけを作った。「去年は迷惑かけてごめん。医者をずらして、今年から毎日部活出られるようになった。」yは優しく「分かった、一緒に行こう」と笑ってくれた。同じクラスにいた部長も一緒に、私たちは部室へ向かった。

 半年以上の部室。何も変わらない。あるのは汚い絨毯と、そこにあぐらをかく部員たち。先程yに告げたことと同じことを、残りの部員に告げた。先輩のいなかった私たちの部活の部員は、同級生の六人ですべてだった。

 再会のひとときの後、私は大量の紙を持たされ、体育館前に立たされていた。新入生歓迎である。入学式に胸を躍らす新入生たちを圧巻し、ビラを配った数で競う戦。昨年度自分自身が餌食となったそれに、今度は狩人側として参加していた。こういう表現、aは好きだよね。

 隣のaに言われるがままに笑顔を作り、半ば強引にビラを配っていく。というより、渡して行く。隙あらば正面に立ち、軽く自己紹介までしてしまった。やや焦る部員rと楽しそうに笑うa。

 部活って楽しいなあ。

 そう思ってからの日々はあっという間だった。五月末の大会に向けて、私は他の部員のサポートに回った。練習に遅くまで付き合い、助言するための知識と経験を身に付けた。特に頼ってくれたのがaで、それ以来aは、大会等の度に私に声を掛けてくれるようになった。毎日毎日、同じことの繰り返し。でも、aのレベルはどんどん上がっていく。

 それを近くで見るのが、本当に楽しかった。

 些細な変化にも気が付くようになってきた頃には、最後の大会を迎えようとしていた。やっぱり私は、最後までサポートのままだった。大会への出場経験はなく、練習を見て助言し、励まし、いい場所カメラを設置し、記録し、そして部員を労わる。それが、二年間の私の役割だった。

 それでよかった。aを始め、みんなが私を頼ってくれることが嬉しかった。始めこそあった軋轢も、一緒に困難を潜り抜けながら壊して、いつの間にか名実ともに仲間になっていた。少なくとも、私はそう感じてたよ。
 六人しかいなかった部員も、三倍近くにまで増えた。私のスピーチで興味を持ってくれた後輩が多かった。少しでも部に貢献できたと思うと、私も成長できたんだと思う。

 最後の大会の結果は、一人を除いて地区予選敗退。常連だったyやrも敗退。私を一番信頼してくれていたaも敗退。心を入れ替えた部長も敗退。唯一地区大会を突破したのは、全体を見通し、母親的な訳をかってでてくれたnちゃんだけだった。

 一人でも突破できたのは喜ばしいこと。おめでたいこと。本当に良かった。おめでとう。

 そう思っているはずなのに、他の誰も流していないものが、私の頬だけを伝った。出場もしていないのに、何も努力していないのに。私にそれを流す資格なんてなかった。

 「ありがとう、はのと。」

 「はのとおおかげで頑張れたよ。」

 「はのとは何もしてないっていつも言うけど、そんなことない。」

 そんな言葉を受け取る資格もないのに。どうしてみんな、そんなことを言えたの?自分が一番悔しかったはずなのに。どうしてaは、私をぎゅっと強く抱きしめてくれたの?

 私が二年間の部活動で成し遂げられてことは何もない。でも、私が何のために部活に参加していたのかは、最後に実証された。みんなのおかげで、私は救われた。居場所を作ってくれただけじゃなくて、受け入れてくれただけじゃなくて、認めてくれた。

 aは引退した後も、進路の相談を沢山してくれたね。第一志望ではなかったけど、aはどこに置かれても輝けるはずだよ。だって今も、一生懸命頑張ってるじゃん。Twitter見てれば分かるよ。あの頃と何も変わっていないつぶやき。それが、何よりの証明。

 いつかどこかで、もしかしたら二年後の教育実習あたりで合うかも知れないけど、お互いそれまで強く生きようね。耐えようね。夢を叶えようね。約束だよ。

 私を認めてくれて、本当にありがとう。


2021年2月21日 はのと

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