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【科学技術・イノベーション白書】性差と総合知について

文部科学省が「我が国の研究力 科学技術立国の実現」と題した令和4年版科学技術・イノベーション白書をまとめ、6月14日に政府が閣議決定した。その中では、論文数の国際比較などにみられる日本の研究力低下の現状を整理して指摘し、その課題を分析。科学技術力強化のための、若手や女性を含む人材育成、研究環境の整備といった国の施策を解説した。また研究成果を社会に生かすことによるイノベーションの創出や、文理融合による「総合知」を活用する未来社会を展望した。

令和4年版 科学技術・イノベーション白書 / Credit: 文部科学省HP

今回はそんな白書の中で僕の目に留まった2つのトピック、科学に関する「性差」と「総合知」について触れていこうと思います!

科学イノベーションを担う「女性」を育成せよ!

日本の女性研究者の割合は年々増加してきてるけど、他の主要国に比べてまだまだ低い状況にある。令和元年(2019年)に大学などの高等教育機関に入学した学生のうち、特にSTEM(科学・技術・工学・数学)分野に占める女性割合は、日本が経済協力開発機構(OECD)の加盟国の中で最低となっている。

諸外国における女性研究者の割合 / Credit: 令和4年版科学技術・イノベーション白書
OECD加盟国の高等教育機関の入学者に占める女性割合 / Credit: 令和4年版科学技術・イノベーション白書

「男女バランスの良い環境が研究開発の質を向上させる」という認識が高まってきてることから、政府は自国の研究力強化にとって「女性研究者の育成」を重要課題に位置付けている。この認識は日本に限った話ではなく、インドやイスラエルのようなIT立国を目指す国々では女性エンジニアの育成に国を挙げて取り組んではったりする。

政府の具体的な取り組みとしては、内閣総理大臣を議長とする「教育未来創造会議」から、令和4年5月に、理系分野の学部における女子学生枠確保に積極的に取り組む大学等に対して、財政的な支援を強化する等が書かれた提言が出されたりしてる。

科学技術振興機構は、まずは多くの女子中高生にSTEM分野に興味を持ってもらうことが重要やって考えて、平成21年から延べ100以上の教育機関で「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」を実施してきてはる。科学技術分野で活躍する女性研究者・技術者、女子学生が、女子中高生を対象に交流会や出前授業を実施して、女子中高生の適切な理系進路選択を支援してんねんて。

興味深いことに、支援プログラムに参加した女子中高生のアンケート結果から、女子中高生の進路選択には保護者や教員の与える影響が大きいこと、理系分野の知識や技術を活かして働く女性のロールモデルが見えにくいことが理系進路選択の障壁の一つとなっていることが明らかになっている。

また東大の研究から、日本には数学や物理学が男性向きというイメージが色濃く存在し、それは就職に対するイメージや数学は男性の方ができるといった先入観に加え、男性・女性はこうあるべきという性役割についての社会風土が女性の進路選択に影響を与えていることも分かってきている。

各分野における女性・男性に「向いている」と感じるイメージ / Credit: 令和4年版科学技術・イノベーション白書

これから親になっていく世代や教育に携わる人間には、彼女たちに「女性科学者が『豊かな』人生を送れている未来像」を共有できるように、まずは自分達が「科学と性」に関する思考・行動をアップデートしておく必要がありそうね。

社会課題解決に向けて「総合知」を活用せよ!

令和3年4月から施行された「科学技術・イノベーション基本法」では、これまで対象としていなかった人文・社会科学も法の対象とされ、あわせて、あらゆる分野の知見を総合的に活用して社会課題に対応していくという方針が示された。これは、科学技術・ イノベーション政策が、人文・社会科学および自然科学を含むあらゆる「知」の融合による「総合知」によって、人間や社会の総合的理解や課題解決に資する政策となることの必要性とその方向性を指したものとなっている。

背景として、諸外国では、コロナ禍における緊急対応のみならず、「グリーンリカバリー」などの未来産業の創出や、安全保障の視点からの研究開発と大規模投資といった、大きな社会変革が進行している。しかし、日本の研究力やイノベーション力、特に先進技術を社会実装する力は十分とはいえず、科学技術やビジネス面での国際競争力が低下している。さらに、若者世代の自己肯定感の低さなど次代を担う人材に関する課題も浮き彫りになっている。

グリーンリカバリー
新型コロナウイルス感染症の流行で冷え切った世界経済の再起を図るのに際し、脱炭素社会など環境問題への取り組みも合わせて行おうとするアフターコロナの政策の一つ。

こうした課題に対応するため、日本の科学技術・イノベーション政策は、グローバル課題の解決に貢献するというマクロな視座と、国民の一人ひとりにどんなメリットがあるかというミクロな視座の両方が必要とされている。 このため、自然科学のみならず人文・社会科学も含めた多様な「知」の創造と、総合知による社会全体の再設計、これらを担う人材の育成が避けては通れへん状況になっとる。

総合知の活用を推進するための環境整備を行うため、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)有識者議員懇談会において、総合知を活用する人材の育成、育成された人材の活用とキャリアパス(評価)、交流・連携・融合や育成を促進 する「場」の構築についての戦略的な推進方策が議論された。その中では、「専門知」を疎かにしないことや、”表層”的な文理融合にしないこと、環境整備を段階的に進められるように方策を設計するとともに、時代の潮流に対応できるようにすることなどの留意点にも触れたらしい。

ところで、近年では国内だけでも、学生を対象としたビジネスコンテストが数多く開催されている。こうしたビジコンで新規事業開発を経験することは、業務遂行力や関係構築力、修羅場力といった社会人としての「基礎体力」を飛躍的に成長させ、「ビジネスのエッセンス」を実践的に学ぶことができると思う。

しかし、こうしたビジコンに多くは、科学技術とビジネスの両方の知見をもつ「総合知」の使い手が審査員におらず、「科学技術を社会実装する事業」に対応できていないのではないかと感じることがある(科学分野の「専門性の高さ」がそうさせている可能性は大いにあるけど…)。事業を計画する中で技術的な課題に遭遇したとき、実現に向けた技術開発計画を深堀りしようとせずに、実現可能性を理由にして簡単に事業方針を変えてしまっていないだろうか。

未来の科学者たちの「総合知」を育むため、マーケティングなどビジネスの観点からの計画に加えて、テクニカルな課題解決の計画を盛り込んだ事業立案を経験できる機会を提供できたりせえへんかな~。メーカーの新人研修とかを探したらヒントが出てきそうな気もする。ピンときた方は情報共有してもらえるとありがたいです!


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