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学生時代に経験した人生初めてのバイト

 塾の先生、スイミングクラブのコーチ、バスガイド、ラーメン屋の店員、うどん屋の店員、家庭教師、交通量調査、釣り餌屋の店員、韓国クラブのパントリー、一流ホテルのホール、病院事務(夜間宿直)、土方これ全てオレが学生時代にやってみたアルバイト。

 オレは、地方の大学(当時は駅弁大学と言っていたな)に通う貧乏学生。中でも忘れられないのが大学の先輩、真鍋さんが紹介してくれたこの「変わり種」のバイトだった。

1 真鍋さん

 真鍋さんと出会ったのは、オレが大学2年のころ。サークルの部室、うだるような暑さの8月のことだった。出会いは衝撃的だった。真鍋さんが部室に入ってくるなり、日頃オレらに偉そうに講釈たれていた先輩たちがそそくさと席を譲り下座に座るという敬服の挙に出たから「この人只者じゃないな」と動物的勘が働いた。

 レイバンの高級サングラス、上品なダークスーツに黒のオープンカラーシャツ、両手の指には金の指輪が数多、高級コロンの香り。パーマ髪にポマード仕上げがどことなくキャロルの永ちゃんかクールスのひろしくんを彷彿させる、誰がどう見てもどこから見ても大学生とは誰も思えない他を圧倒する雰囲気。ドスのきいた低い声は、自分の中で「恐らくこの人の声はこんな感じなんだろうな」と思い描き想像してい声と恐ろしいくらい一致していた。後にも先にも自分の浅い経験でこんなタイプの大学生にあったのは生まれて初めてだった。

 真鍋さんはなぜかオレに興味を持ってくれた。オレの特徴は、飾らず正直に自分の素をそのまま出すところだが、その態度が相手によって両極端な反応を示させることは小学校の頃から認識していた。徹底的に嫌われるか?とことん好かれるか?の二つに一つ。真鍋さんは後者だった。なぜか初対面からオレを気に入ってくれて可愛がってくれた。大学生とは完全に乖離している特別な存在で居並ぶサークルの先輩方が羨望の眼差しで応対する真鍋さんから可愛がられるという特待生にも似たようなポジションは決して悪くはなかったと言うより、むしろ快感でもあり誇りもに似た感情だった。

 真鍋さんが特別な大学生だった理由はこうだ。

 真鍋さんは良家の子息で幼い頃からピアノを学び、英語能力を伸ばすためにこの大学に入学したがどこかでディメンションを間違えて今の生活様式に出会ったらしかった。真鍋さんは特技のキーボード能力と音楽センスを生かして韓国クラブのエレクトーン奏者としてライブ演奏やカラオケ伴奏をしながらとんでもないような高給をゲットする傍ら年上の水商売の女性と付き合い、同棲するなどまさにオレからすると異次元の「伝説の大学生8回生」だった。高校時代に「真面目が服を着て歩く」ような生活しか送ったことのないオレにとっては、どこか眩しくもあり「クール」でカッコいい、ある意味羨望の存在だった。

2  紹介されたバイト

 ある秋の日、真鍋さんが運転する外車で大学近くのレストランでランチを済ませたあと真鍋さんがタバコの煙をふーと鼻から出しながら

 「俺が働いている韓国クラブでバイトしてみんか?」

と徐に韓国クラブでのアルバイトをオレに勧めてくれた。え?韓国クラブって何するところ?バイトの内容は?なぜオレに?と真鍋さんから思いも寄らない誘いがきたことに戸惑い半分興味半分だった。「夜の世界」でのアルバイト。これまで経験したことのない世界への興味に脳からエンドルフィンが放出され自分の中の好奇心が一気に目覚めた。思わず「オレでいいんですか?」と返答している自分がいた。

 夜の世界、韓国クラブでのバイト内容はこうだ。

  🔹 出勤から開店まで:午後4時から勤務開始。まずは前日洗っておいたサントリーのミネラルウオーター(※)空き瓶に水道水を詰めていく。その数凡そ30本。その後掃除機をかけ、店内すべてのテーブルに雑巾掛けして清掃。

   ※この「ミネ」(業界用語らしい。ミネラルウオーター)を一本五百円で提供するらしい。まさに水商売。ここでのバイトを経験してからはキャバレー、クラブでのミネラルウォーターはその場で栓を抜いたものしか信用しなくなった。

  🔹 開店中

    開店時間の午後6時からはパントリーにアジメ(韓国人のおばさん)と二人でスタンバイ。韓国人ホステスが客から注文を取ってきた韓国家庭料理(チヂミ、チャプチェ、キムチなど)をアジメが手早く調理し、出来上がった料理プレートをホステスに渡す作業。これが延々午前2時まで続く。この間ほぼ立ちっぱなし。その間に上記の「ミネ」が5−6本単位でどんどん出て行くので、下がってきた空き瓶に水道水を詰めるという作業や灰皿交換、そして皿洗いもあるので結構忙しい。

  🔹 閉店後とその後の日課

    午前2時にきちんと閉店することはまずもって皆無で、ほぼ30分から1時間くらい後にずれ込むので、バイトが終わって下宿に戻るのは毎日夜明け前。ボロ雑巾のようになって疲労困憊、クタクタで帰ってくる。こんな生活を続けたら授業に出る気力も失せるのが自然というもの。午前5時あるいは6時から「丸太のように寝て(ビートルズの A hard day’s night に Sleep like a log というのがあったのを思い出した)」午後2時ころ起き出しては午後4時の出勤に備えるという毎日が続いた。

 【ここまで読んでいただき、ありがとうございます。結構長くなったので一応ここで切らせてもらい、続きは次回以降ということでよろしくお願いします。】


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