「noteに投稿されている短編小説をランダムに読む2」2022/6/29

・人のnoteを読むのは楽しい。ためになる情報の記録も日常を綴るエッセイも創意工夫のある小説も全てが僅かなりとも骨身を築いている。創意工夫のある小説、もっといっぱい読んじゃお。

・前にランダムに読んだ時のやつがこれ↑。今回も無作為に作意を読み取っていこう。


No.6 wakuimakoto(ジャミロワクイ)「おじいちゃんのたばこ」

あらすじ
職場から自宅へ帰る道中、涌井は複数人の喫煙者を見掛ける。彼らの喫煙スタイルに不快感を覚えた涌井は、自分と自分の子のもとに親が上京してきた日のことを回想する。

・短編小説と銘打たれているので読んでみたが、内容はエッセイに近いのではないか。著者wakuimakoto(ジャミロワクイ)氏は涌井慎という名義でnoteを更新しているし、本作に登場している京都市に在住しているようだ。エッセイ寄りの私小説といったところか。

・煙草を吸う人に嫌悪感を覚えることがあるか。私はない。多分副流煙を顔に直接吐きつけられても、目に染みるな、くらいにしか思わないと思う。自分は煙草を吸わないからこそ他人の嗜好品には慎重にコメントしなければいけないと考えているし、そもそも批判する謂れがない。

・本作の語り部である涌井氏は態度に出すレベルの嫌煙家である。自身のその思想は幼い息子にも継がれ、その視線は「おじいちゃんのたばこ」に注がれる。

・本来、法や規律を乱さない限り、何を好んでも何を嫌ってもその人の自由だと思う。しかしそれを外部に出すと往々にしてトラブルの引き金となる。過去のエピソード時、京都市内の公道での喫煙がどれほど規制されていたか分からないが、それに反さない限りは喫煙は自由だろうし、それを律するのも自由だ。

・読解力不足で、作中の「パンク」の意味合いが掴みかねる部分があったけど、「感情の方向転換」は面白かった。(勝手な解釈かもしれないが)涌井が親と子に求める性質がうっすらと言外に感じられるような一作だ。


No.7 おみ「ハンバーグの余韻」

あらすじ
ハンバーグを食べつつ読書をしたい”私”は、本をもってファミリーレストランへ向かう。店内にはオレンジ色のTシャツを着た大人が大勢いた。

・結構好きな短編小説だ。面白い/面白くない、みたいなのは置いておいて好きな小説。「おじいちゃんのたばこ」からエッセイ風の作品が続く。

・題材となっているのはごくありふれた日常。ファミレスに行き、本を読み、ハンバーグを食べる。ただそれだけ。

・一方で節々にあるちぐはぐさが妙に引っかかり、作中のアクセントになっている。小説を耽読するのにハンバーグは似合わないし、選挙スタッフがファミレスにたむろするのも似合わない。作者がそのことを狙ったかは分からないが妙にビジュアルとして頭に残る。

・選挙では、(政策として実際に厚く保護されているかは別として)子供を尊重することを声高に演説されることがままある。誰しも幼少期を経ているのでそれを真っ向から否定できないだろうし、コピーとして耳障りがいい。一方で保護されるべき存在が可視化されるとき、反対に透明化される存在はいないか。

・決して、「子ども第一」を否定するわけではない。作中の”私”に関しても「ピンと来ない」だけだ。ただ、そういった日常に潜む違和感(「似合わなさ」とも言い換えられるかもしれない)を言葉にするのが小説だ。否定でも肯定でもないピンとこなさは、情景のちぐはぐさと相まって一つの作品に昇華されている。

・作者のおみ氏、私がこのnoteを書いている2022年6月29日時点ではフォロワー0人で驚いた。すごく良い文章書くのに。短編連続小説「生理カウントダウン」も面白いのに。最古参を名乗るなら今がチャンスです。


No.8 YAMADA NAGAO「夏祭りと少年」

あらすじ
お盆の時期になると自治会主催の盆踊り大会で出会った少年のことを思い出す。当時”私”は小学5年生で少年は小学2年生だった。夏祭りをきっかけに少年たちは親交を深める。

・「夏祭り」を想像する時、それは幼少期の思い出の人が多いんじゃないでしょうか。夏祭りは今年も、来年もずっと未来も開催されるであろうものなのに、何故か夏祭りは過去形で使われがちだ。君がいた夏は遠い夢の中だ。

・幼少期の経験は些細なものでも鮮やかに映る。世界に対する経験が乏しく多くのものが初見であり、製作・運営する大人の事情や意図がベールに覆われている状態だから。夏祭りなんかはその代表だと思う。

・本作の”私”と”少年”との経験はいたって凡庸だ。多くの日本人が通ったことのあるかもしれない道だ。固有名詞が一切登場しないのも象徴的かもしれない。多くの大人が持っているであろう心象風景を祭り描写に乗せて書くと同時に、その時の心情を少年の感覚と大人の回顧の二つの視点で描いている。

・暑いのは苦手だけど、今年は縁日にでも行ってみようかなぁ、と思った。


No.9 山田エズミ「サンタさんの贈り物」

あらすじ
キョーコと同棲するヒモの”ぼく”が目を覚ましたのは冬の昼過ぎ。外で働くキョーコのことを家事をしつつ帰りを待つ”ぼく”は、その日が12月24日、クリスマスでありキョーコの誕生日であることを思い出す。

・急に夏から冬になった!!!無垢少年の交流からヒモ青年の同棲に!!!寒暖差!!

・退廃的な小説って何故か魅力的。向上心の溢れたキラキラした人間も嫌いじゃないけど、小説という装置で心情を同期させて進んでいくとなると少し疲れてしまう。甲斐性ないくらいの人の内面が、一番穏やかな温度で心地よいかもしれない。

・”ぼく”の生活や、本作での行動はおよそ生産的ではない。けど、生産性を求め続けるのってしんどい。多くの社会人は休日に息継ぎしながらなんとか働いている。選挙スタッフだって夏祭りの運営者だって靴下の販売員だってそれは同様だろう。

・ヒモの日常生活は抑揚がない。自由があるように見えて「~すべきだ」と彼女の存在に起因して行動する。そんな暮らしぶりが不健康ながらも愛おしかったりもする。

・クリスマスの夜の結末、果たしてこれはハッピーエンドと捉えていいんだろうか。ハッピーエンドを求めていたわけじゃないが、彼らの日常がこの小説の後も続くと考えたら少し複雑だ。まぁ、いいか。結局は個人間の問題だし。

・あと、この話がnoteに投稿されたのは昨年の12月24日23時40分なんだ。ネットミームでは「性の6時間」内だし、個人的には明石家サンタ待機時間だ。


No.10 寝袋男「ニドネ•オン•ザ•ベッド」

あらすじ
[am7:00]アラームの音で目が覚める。隣人女性の叫ぶ声が聞こえる。何も知らない"俺"は二度寝するまでの15分間を繰り返し続ける。

・ループものっていいですよね。主人公が同じ出来事を繰り返し経験することで成長するのが、王道の「修行パート」と「転生もの」の中間って感じで。

・映画好きが映画の面白い要素(作者の好きな要素?)を全部詰め込んで濃縮して短編にしている。映画あるあるっぽい設定から始まって、オリジナリティのある真相究明になっているのも良い。

・とても面白いストーリーだし、濃縮された内容を還元してもいいのじゃないか、とも思ったが、15分問という短時間のループ、まどろみの中の主人公の視点となると、このくらい急ピッチで完全に処理しきれていない感じがいいバランスなのかもしれない。

・テンポよく楽しい作品がなにより。ネタバレ云々言う暇もないほどサクッと読めるので、空いた時間に是非。

・作者である寝袋男氏の自己紹介記事、ロケットニュース的でありオモコロ的でもあって楽しい。デイリーポータルZ的ではない。紙袋を被る寝袋男氏の左手薬指に指輪が光る。



まとめ

・短編小説をランダムに読んだ結果5作中4作が私小説っぽい(No.10は完全な創作として、No.9はそうでもないか?)エピソードだった。こういうこともあるんですね。

・気が向いたらまた読もう。


【今日得た知識】
・京都市では、平成19年6月1日に「京都市路上喫煙等の禁止等に関する条例」が制定され、市内全域で屋外の公共の場所(路上や公園など)での喫煙が禁止された。

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