【童話】サンタの助手
エリちゃんは、いつもひとりで留守番をしている。
お父さんもお母さんも働いているから、学校が終わったら、しばらくの間ひとりきりだ。
『4時までに家に帰ってくること』
『ピンポンが鳴ってもドアを開けないこと』
たくさんの約束があるけれど、エリちゃんは、ちゃんと守っている。
エリちゃんはテレビをつける。でも見ていない。
さびしくないように音だけ出して、大好きな空想あそびをはじめる。
もしも、わたしが鳥だったら……。
もしも、わたしがお姫様だったら……。
そんな『もしも』が最近のお気に入りだ。
今日は何になろうかなぁ、とエリちゃんは少し考えて、クリスマスだから、そうだ、サンタさんの助手になろう、と思った。
助手という言葉は、お母さんのお手伝いをしているときに覚えた。
もしもわたしがサンタさんの助手だったら……。
トナカイさんと仲良くしよう。ツノを触らせてもらおう。
助手だから、ソリに乗って、サンタさんの横に座って、地図を見よう。プレゼントを配る子供たちの家をサンタさんに教えてあげよう。
「エリちゃん、次はヤマダケンジくんだ」
「ケンジくんの家はあの公園の前です」
「エリちゃん、次はタナカナオコちゃんだ」
「あの青い屋根の家がナオコちゃんちです」
エリちゃんが教えると、サンタさんは袋の中からプレゼントを次々と取り出して、その家の上からぽーんと投げた。
プレゼントは、しゅっしゅっと音を立てて、家の屋根から中に吸い込まれるようにして消えた。
空から見る街はきれいだった。クリスマスのイルミネーションと、たくさんの窓からもれる光。
サンタさんはときどき、
「ホッホッホー」
と言って、エリちゃんを笑わせた。
ソリはエリちゃんが住む街の上を走り、ゆっくりと駅の上空を旋回した。
そのとき、エリちゃんは、お父さんを見つけた。
お父さんは駅から走って出てきて、駅前のケーキ屋さんに入った。今日は7時までに帰るって約束したから、ケーキも買って帰るって約束したから、お父さんは急いでいるんだ、とエリちゃんは思った。
よく見ると、数人のスーツを着た大人たちが走っている。
もっとよく見ようと、ソリから身を乗り出すと、今度はお母さんを見つけた。
家の近くのお店から大きな袋を両手に持って出てきて、自転車に乗った。風で髪は逆立っているけれど、お母さんはいっしょうけんめい自転車をこいでいた。
エリちゃんは、サンタさんの助手をしていることを忘れて、しばらく、お父さんとお母さんを見つめた。
「エリちゃんは、プレゼントに何が欲しい?」
サンタさんの声で、エリちゃんはハッとした。
エリちゃんは少し考えた。さっきまでは可愛いお人形が欲しかった。
でも……。
「サンタさん、大人はプレゼントもらえないの」
「大人ももらえるよ、必要だったらね」
「じゃあ、お父さんとお母さんに、お休みの日をプレゼントしてください」
エリちゃんが言うと、サンタさんは自分の白くて長いヒゲをなでながら……。
「エリ、エリ、起きて」
お母さんに肩を揺すられて、エリちゃんは目が覚めた。目の前にはテレビとお母さんの笑顔がある。
「寝ちゃったのね。お腹すいたでしょ。ご飯をつくるから、お母さんの助手になってくれる?」
エリちゃんは、お母さんと一緒に料理をした。
お父さんも帰ってきて、3人で夕飯とクリスマスケーキを食べた。
そのとき、お父さんが言った。
「お父さんとお母さん、明日、急にお休みが取れたんだ」
エリちゃんは、びっくりした。サンタさんの白いヒゲを思い出した。
「エリも冬休みだから、3人で遊びに行こう。どこに行きたい?」
エリちゃんは、お父さんとお母さんの顔を順番に見て、ちょっと首をかしげて、すました大人びた表情を作り、答えた。
「今日は、いっぱい助手をしたから、疲れたの。明日は、3人で、ゆっくりお休みしましょ」
お父さんとお母さんは、顔を見合わせた。
「ホッホッホー」
サンタさんの声が、どこからか聞こえた。
↑こちらに応募させていただきました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?