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トーナル→コーダル→モーダル(4)

(1)トーナルとはなにか
(2)ジャズ研におけるトーナル感覚の問題点
(3)ジャズの歴史とトーナル→コーダル→モーダル
(4)トーナルと音感。トーナルだけでもジャズはできない。

Index

さて「トーナル」というのは結局なんなのか、そして、それがありさえすればジャズになるのか?ということを述べましょう。

「トーナル」とは結局何か?

「トーナル」=単一調性でソロを吹くためには、ジャズのリックやフレーズ、パリッとしたコードテンションよりも、はずれない音を用いてメロディメイクを行うことが重要です。

はずれない音でメロディメイクをするのに最適化した楽器が一つある。
ブルースハープだ。
ブルースハープは、ある特定のキーのドレミファソラシドを出せる楽器で、曲ごとにそのキーの楽器を用意しなければいけないが、そのキーから外れることがない。(息のスピード・ベンドのような奏法で音をフラットさせることはできる)
ちなみに、ジャズや現代のポップスのように頻回に転調を繰り返す曲ではブルースハープはとたんに難しい楽器になる。

ブルースハープではない楽器で演奏する場合、自分で調性の枠からはみ出さないように演奏しなければいけない。
そのために、てっとりばやいのは「音感」。
知識よりもフィーリング。
つきつめると「トーナル」に向いている人は音感にすぐれた人、と言える。

ここでいう「音感」は、絶対音感なのだろうか?相対音感なのだろうか?

「相対音感」「絶対音感」?

これは以前に書いたことがある。

結論から言うと「完璧な音感」は、絶対音感・相対音感の両方を兼ね備えている。「絶対音感」「相対音感」は、ある種皮肉だが片方を欠失した状態であるとさえいえる。
「絶対音感の人」(特に最相葉月『絶対音感』で描かれる絶対音感の人)は相対音感の感覚がやや欠失した人。
一方「相対音感の人」と呼ばれる人は絶対音感がやや欠失した人といって差し支えない。

世の中の大部分の人は、絶対音感・相対音感の両方ともないのが普通。
だから、片方だけでも持っているだけでもすごいことなんですけども。
けれど「トーナル」=調性感覚を十分に働かせるためには絶対音感・相対音感の両者の能力が必要になると思う。

トーナルは必要条件

メロディー楽器では「トーナル」つまり音感があると、いい感じにメロディメイクができる。
いくらジャズの理論を「勉強」しても、トーナルの感覚が不十分だったら、頭でっかちな演奏といいますか、コードアルペジオの羅列になりがちで「歌う」ソロにはならない。
ピアノ・ギター・ベースはともかく、息を吹き込んで演奏する楽器では、このトーナルの良し悪しがかなりソロの良さを決める要素になると思う。

しかしその逆。
「トーナル」だけが優れている状態はどうでしょうか?
これは、これで、やはりジャズっぽくはならないんだな。

「トーナル」だけでもモダンジャズはできない

例えば、聴いたメロディーをすぐ同じように吹くことができたり、それを即座に半音あげたり、下げたりできる人がいます。
多分吹奏楽経験者のうちの10~15%くらいにいます。
小さい頃からピアノとか他の楽器やっている人で、音楽に小さい頃から馴染んでいると、こういうことが自然にできちゃうわけです。
ごくまれに、全く音楽経験がないのに、こういうのがいきなりできちゃう人もいます(天才だと思う)。
どちらかというと女性の比率が高い印象はある。

こういうトーナルがすぐれた人は、音選びが上手で、メロディメイクが自然にできちゃうのは確か。
でも、それができたからといってジャズのアドリブとも言えない。
前項で述べた「トーナル&コーダル」の音楽をやるためには、コードであったり、スケールの理解やトレーニング、また先人のジャズフレーズなどを聴いて演奏することは必要だと思う。

ジャズはやはりアフロアメリカンの人々の感覚、英語のリズム、グルーブ感など、日本で生まれ育ってきた我々が生まれながらにはもっていない要素が沢山あります。先人達が寿命をすり減らして表現してきた過去の遺産もある。
そういった要素を丹念に身体化しないと、よいジャズのアドリブにならない。
トランスクライブ(耳コピ)が大事だというのはそういうことです。

もちろんこれは「スタイル」の問題で、過去のそうした遺産を全てできないといけないわけじゃない。取捨選択することは可能だし、みんなしています。
そういう過去の遺産を全無視して「俺ジナルジャズ」と言ってみるのも一つのやり方。
けど、まあそれで万人を唸らせるカッコよい音楽を形成し、なおかつそれをジャズって名乗るのってすげー大変だとは思う。
「自転車の再発明」にならないように。

ジャズ研は才能の墓場

前述した「音感にすぐれた子」がジャズ研に新入生として入ってきます。
そうすると「こいつはすごい奴かも」と上回生は色めき立つわけなんですけれども、この「トーナル」が優れている人が、ジャズ研で必ず伸びるかというと、そうでもなかったりする。

それは長所と短所は紙一重だから。

トーナル・センスが優れている人は、初学のレベルでは、他と比べて圧倒的な優位なので、その才能に頼りがちな傾向があります。
ジャズの理論的、理数系のめんどくさい部分に触れなくても、フロント楽器なら、その場しのぎのトランスクライブでなんとかなったりします。なにしろ勘がいいから。

そうですね、地頭がよいせいで、さほど勉強する習慣がなくて進学校に入った早熟の天才みたいなやつ。入ったあとコツコツやる習慣がなくて落ちこぼれる。

ジャズ研っていうのは「研究会」といいながら、研究したり教えてくれたりは意外にないんだよな。
自分でやるしかない。
結局そこにいて共演するプレーヤーのレベルで上達度は決まってしまう。

山野(YBJCC)にギリギリ予選落ちするくらいの学バンの定期演奏会を観に行ってごらんなさい。
ビッグバンドだろうとコンボだろうと、ソロをとっているのは、大体「トーナル」感覚はもともと持ち合わせていて、中高で吹奏楽で楽器を上手に吹きこなす人。
多分器用にトランスクライブしていると思いますが、ジャズのアドリブをきちんと系統だててやっていない人だったりします。
書き譜かアドリブかは聴けばわかってしまうもんです。学生同士でいうと「吹ける人」というポジションなんだろうけど……みたいな演奏よくありますね。

特に、楽器の演奏力は凄まじいのに、アドリブの能力はあんまり強くないなあ、みたいな人は、定期演奏会ではよく観察できます。
ま「才能の墓場」ですよね。

これを避けるには「ジャズ研」みたいな狭いフィールドではなく、もっとオープンな場、地域のプロとアマチュアが混淆しているようなところに、ステージをあげるしかないんじゃないかな。
「ジャズ研」は良くも悪くもマリオカートのブロンズ・リーグみたいなもので、そこに安住するつもりなら、さほど研鑽はいらない。
外にでてプロやアマチュアでも上手い人に揉まれる方が成長しやすい。
ただ、これも一長一短で、ちょっと肩入れしすぎちゃって留年したりする落とし穴にハマったりすることもある。なぜならフルサイズのジャズ理論って(アベイラブルノートスケールとかそういうやつ)すげえ時間食うのよ。いやはや難しいもんです。

まとめ

  • ざっくりというと「トーナル」は巷で言われている「音感」という概念にかなり近い。トーナル・センスが優れている人はメロディメイクにおいて有利。特に吹く楽器において。

  • ただし、トーナルがありさえすればジャズができるというものでもない。過去のジャズのスタイルを紐解き、理解し、身体化する作業は必要である。

  • ジャズ研にはトーナル・センスに優れているけどアドリブにあまり手を出さずに終わった人は一定数いる。もったいないにゃー。









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