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オブリ研第6回 : "S'Wonderful " (1)

(1)曲について       ←Now
(2) 作例 Iさん(フルート)
(3) 作例 私(トロンボーン)

Index

みなさんみてくれてどうもオブリガード!
オブリガートについて追求していくコーナーです。

実は去年からSNSでやっていたオブリガート共の会、ストックがあともうちょっとあるんですけれども、資料が揃わなくて足踏みしております。
ということで、今回はすこし別のアプローチ。

ボーカル歌伴における "'S' Wonderful"をやってみようと思います。
S'Wonderfulはガーシュウィンの名曲ですが、残念ながら黒本には収載されておりません。
かつての定番「青本」にはEbで収載されていました。
(意外に、それ以外のReal Bookにも載ってないんですね…俗にいう『白本』Jazz Standard vocal版にはありました)
今回は Abのキーで歌う女性ボーカルにの歌伴(オブリ楽器はフルート)について、依頼があり、やってみようと思います。

S' wonderful

”That's wonderful”という言葉なんですかね?いかにもアメリカ英語っぽい言い回しです。歌詞や歌詞に込められたもろもろについては歌詞を取り上げているサイトや「ジャズ詩大全」などをお読みください。
一応最大公約数的なLead Sheetを挙げておきます。

Fig.1 "S'Wonderful" Lead sheet

構成

AABAの32小節。Aメロ3-4小節目はA dim7ですが、これはF7と考えていいと思います。シンプルに6-2-5と巡回してAbに戻るシンプルな構成。
折り紙でいうと「鶴」くらいの基本形です。Aメロはかなりシンプルな形。
この曲のフックはブリッジと最後のA です。

Bメロ(ブリッジ)

まずはブリッジの話。
Bメロの頭4小節で唐突にAbのキーからCへ転調します。
長三度上のメジャー。
ずっと昔(僕がまだ若かったころ)は「唐突な転調だな…」と思ってました。よくよく考えてみると、必然なんですよね。
Bメロ後半は |Cm7(C7) F7 Bbm7 Eb7|とAメロのAbに戻る3-6-2-5を形成しています。で、このCmの同主調のCなんですね。
要するに3-6-2-5の IIIm7を III⊿7としてこので滞留しているわけ。
この3にもう一階重ねて(#4-7)-(3-6)-(2-5)となっている。
一見唐突なコードに飛んでるとみえて美しく4度進行した挙句にAメロに戻る。うーん、きれいですねえ。

当時のミュージカル業界における転調の技巧がうかがえる様式美です。
これが作られた20世紀初頭は今のポップスの役割をミュージカルやティンパンアレイの作曲者が技巧の凝らされたさまざまな楽曲を発表していた時期。様々な技法が進化していきました。

現在ではジャズにしろ他のジャンルの音楽にしろ転調技法がさらに突き詰められてた結果、聴衆は突拍子もない転調は受け入れられるようになりましたが、そこまで聴衆の許容範囲が高くない時代の、コード進行として、転調の工夫と揺るぎない整合性のバランスのとれた完成度の高い構成だと思います。

Dパートの謎


そしてこの曲のフックのもう一つ、AABAの帰ってきたAメロ(Dパート)。
ほとんど同じコード進行と見せかけて、3-4小節目だけ敢えてのBdim7です。

これは何か?
Bbm7(Ⅱm7)の受けとしてのB dimですので、単純化して考えると、Bb7なんでしょうね。Bb7→Bbm7という動きを重視したものかと思います。
3回Aメロ繰り返しのなかで最後だけこのケーデンス。エモい。

では、なぜ 3回あるAメロの中で Adim7よりもBdim7をラストにもってくるべきだったんでしょうか?
Bdim Bdim、最後 Adimだったら、今ひとつなんでしょうか?
もう少しいうと、VI7-IIm7-V7のケーデンスはジャズでもその後定番のパターンになっているけどこのII7-IIm7-V7はそこまで定番になり得なかった理由はなんなんだろう?
などと僕はいつも思ってしまうのです。

名演

昔のジャズ名盤100みたいなやつには必ず取り上げられたレコードです。プレイヤーはいざしらず、リスナーにとっては絶大な知名度と人気を誇ります。
3:00過ぎくらいからクリフォード・ブラウンのソロが繰り広げられます。このへんも名演の証だよなあ。

https://youtu.be/XmPKXmbUJSI

いわゆるジャズじゃない、本来のミュージカルの雰囲気は、これで味わうことができるんじゃないでしょうか。"Starlift"は朝鮮戦争の時の空軍基地を舞台にしたミュージカルだそうで、ドリス・デイがここで歌ってます。テンポはややミディアム〜ミディアム・ファストくらい?

こうしてみると、現在S' Wonderfulがファスト・テンポで演奏されるのは、ヘレン・メリル版の印象が強いんでしょうね。

作曲者 Gershwin本人の録音も残っています。スタイルはその当時の技法なので、いわゆるジャズ的ではありませんが、ラグタイム時期の雰囲気を味わうことができます。(クラシックの小品的な構成なので、オープンコーラスで繰り返し、というジャズの定形ではなさそうです)

インストもの。アーシーなおじさんZoot SimsのGershwin曲集。
ピアノはオスカー・ピーターソンで、やはりやや速めのテンポ。

次回は実際の作例にうつります!


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