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アドリブ研究 : "Wave"(1)

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アドリブ研究の会:第2回(2022年5月)
参加者:K・半熟

第1回の"Softly, As a morning Sunrise"のアドリブ解説のあとKくんに
「次なにやる?」と訊いた。
「Waveがいいです」とのこと。
えーあの曲難しくない?……と思ったんですけども。
まあ、本人がやるっていうし。

ということで第二回はボサノバの名曲 "wave" です。

ジャズ研換算でいえば、間違いなく3年生以降の曲だと思います。

曲の解説

不朽の作曲者、Antonio Carlos Jobimの手による名曲です。
同名のアルバムもある。キリンのジャケが有名ですね。
最上質のイージーリスニング。
このアルバムではUrbie Greenがまたいい仕事をしているんだなあ。”Look to the Sky”なんて最高(Waveにはでてきません)。

曲の構造

Aメロが12小節、Bメロが8小節のA-A-B-Aの構造をとっています。
結果1コーラスが44小節というサイズです。オリジナルキーは D。ジャズにしては結構難しいので、昔「青本」と言われたスタンダードジャズハンドブックでは、Cのキーで収載されていました(黒本はD)。セッションの現場では今はDで演奏されることが多いですね。

オープンコーラスでぶりぶりソロをとるよりも1コーラスできっちりドラマを作りこむ曲だと思います。歌物とかBGM演奏など、場合によっては半コーラスでソロを終わるパターンもあると思います(その意味ではバラードとかに近いのかも)

このYoutubeのモノホンなんてソロとも間奏ともつかない感じですもんね。
もちろん、家で脳汁を出しながら何コーラスもソロを練り上げるのはご自由(僕もやります)。

Aメロの謎

この曲のAメロ。ジャズ研諸君には一目瞭然だと思いますがAメロはブルースに酷似したフォームをとっています。でも、細かくみるとなんか違う。
ブルースをジョビンなりに再解釈したコード進行だと思います。

一般的なブルースと比較してみましょう。
in Cで比較するのが理論的にも適切ですが、このページは「ジャズ研諸君」を対象にしているので、あえてよくやるin Fで、iReal Proで比較しましょう。
iReal Proは黒本と多少コードが違いますが、本質的にはかわりません。

WaveのAメロを Fに移調するとこうです。

ブラジル産ブルース

一方、みんながよくやるBillie's Bounceのコード進行はこちら。

アメリカ産ブルース

えーと、ミルクボーイのネタになりそうな感じですよね。
「12小節でひとかたまりで5-6小節目はⅣのサブドミナントやねんて」
「そりゃブルースそのものやないの」
「でも1小節目はセブンスじゃなくてメジャーセブンスらしいよ」
「ほなブルースと違うかあ」

冗談はさておき、具体的な違いをみてみましょう。

  • 1小節目。TonicがWaveではFmajor7。一方Bille'sではF7です。トニックで7thを使うのがブルースのアイデンティティなので、Waveではこの原則を大胆に無視しています。

  • 2小節目。WaveはDbdim7(Ⅵbdim)は本質的にはBbdim(Ⅴdim)と同じ。一般的なブルースのBb7と同じ効果を狙っていると考えましょう。

  • 3-4小節目は5小節目にむかう2−5が短いか長いかの違い。これも本質的には一緒(微妙にマイナーⅡm7−Ⅴ-9だけど)

  • 5−6小節は WaveはBb→Bbm(SD→SDM)の流れ。一方Billies'ではBb→Bdim7(passing diminish)とニュアンスが異なる。大きな流れとしては同じですが吹き方は変わってきます。また一小節目と同じくmajor7と7thの違いもあります。

  • 7−9小節は、Waveではセカンダリー・ドミナントのG7の前にA7→D7→Gといわゆるドミナント・モーションで動いている(それぞれ転調してます)のに対し、Billie's Bounceでは Am7-D7-Gm7 と比較的素直なコード進行。

  • 11−12小節では、WaveではTonicのFmajor7をFmにしている。

実は、ブルースのブルースっぽさの象徴である「ブルーノートスケール」をWaveでは最後の二小節をFmにかえることで、それっぽく表現しちゃっています。なんちゃってブルーノート。なんちゃってブルース。

このなんちゃって感、絶妙の「偽物感」が ”wave” のいとおかしきところじゃないかと思います。
ジョビンが、ブルースええやん食べてみたいと思ったけど、本場の食材がない。しゃあないから地元の食材で作ったらこうなりましたーみたいな感じ。
でも、ブラジルの食材を使った魅力的な料理に思えます。
むしろ「ブラジル」という括りではなく、ヨーロッパ人がアフロアメリカンのブルースを換骨奪胎したらこうなりました、という正解の一つがこれか、という気さえしてくるものです。

in D もとのキーに戻して考えましょう。
10-12小節目はBb7-A7-Dmと、Dmの調性に完全に支配されていますが、ここはメジャー・マイナーというニュアンスよりは、ブルースのD7+9っぽさをかもしだしているんだと思うの。
なので最後らへんはブルースっぽさ、つまりブルーノートスケールを効かせると「らしい」んじゃないかと思います。具体的にいうとflat 5のAbですね。

Bメロ

Fの2−5−1、そして全音さがって(これはFmajor7→Fm7の進行が自然だからです)Ebの2−5−1です。
Aメロは基本的にD majorですが、11小節12小節はDの同主調のD minorになっているわけですよね。Dmの平行調がFです。だからAメロからBメロの移行が自然に聞こえる。
なおかつ、Eb7の代理コードがA7ですから、Ebから戻ってA7→Dの流れも自然です。本当、よくできてますね。

この全音下がる2−5が並ぶブリッジのパターンは、いくつか他のスタンダードにもあります。

  • One Note Samba

  • The Christmas Song

  • Daahoud

  • Samba de Orfeu

  • Secret Love

  • Almost Like Being in Love

このなかで一番目を惹くのはOne Note Sambaでありまして、あの特徴的なメロディをブリッジの中で吹くというのは定番ネタではあります。


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