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なぜジャズトロンボーンのソリストは育ちにくいのか(2)

なぜジャズトロンボーンのソリストは育ちにくいのか  (1)  
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(1)ではトロンボーンのアドリブソロは難しく、やる人も少ないと書きました。
人前に出せる完成度の高いアドリブには時間がかかります。サックスやトランペットのような完全な花形のソリストになるには時間も必要ですし研鑽を積んでも楽器の限界もある。

では、どうしたらいいでしょう?
次善の策として限定的な形のソリストをまずはめざそう、という提案です。

ハードルの低い演奏形態

トロンボーンはソロという分野では不得手です。
しかしそんなトロンボーンでもなんとかなるフィールドを考えてみました。
基本的には「状況を限定すること」「ソリストとして二番手三番手にまわる」ことがコツかと思います。

デキシーランドおよびニューオリンズスタイル

バップ以前のジャズではトロンボーンは花形でした。
やってみるとわかります。
メロディアスなアプローチだったり、ベンドを駆使したり、トロンボーンらしい美味しい音づかいが随所にあります。
デキシーは一見混沌としたアンサンブルですが、音と休符の活かし方という点では他ジャンルとかわりません。バップ以降のジャズコンボにも生かせる要素を学べると思います。

ファンク、ロック、ポップスのブラスセクション

ホーンセクション、ブラスセクション。
きっちりとアンサンブルをする部分は、ニュアンスを含めてメロディの吹き方として共通点は多い。
アドリブソロの部分も、大抵はトランペットやサックスがやりたがる。だから1セットに一曲くらいあれば十分で、負荷は少なめです。
ジャズのコンボに比べるとアドリブにおいてインタープレイの要素は少ないので、完全にアドリブでなくてもオッケー。ソロを作り込んで臨むことができますし、速いフレージングが苦手でも、テーマメロディに近いメロディメイクを多めにトロンボーンらしさを活かすことができるでしょう。

ビッグバンド

もちろんビッグバンドもアンサンブルの比重が高いので、その分アドリブの負荷は低いといえます。
個人的にはビッグバンドのトロンボーンソロはバックのアンサンブルに沈みやすいのでかなり音量としても音高としても頑張らないと行けなくて、難易度がかなり高くなる印象がありますけれど。

三管編成

ハードバップ黄金期にありがちな三管編成のバンドも、ワンホーンよりはハードルが低い。
アドリブソロも幾人かで分担するので一つ一つのソロの曲数もコーラス数も短いし、主旋律を担う比率も減る。ソリストとしての負荷はすこし控えめです。

歌物のオブリガート

ボーカルにもう一本フロント楽器、という形態。
主旋律はボーカルが担うので、対旋律(オブリガート)を担当します。
オブリガートはピロピロ速いフレーズは必ずしも吹かなくていいわけです。デッドスペースをうまく生かして、メロディメイクをすると、いいオブリガートになります。
これってインタープレイのいい訓練になります。
また、ボーカルものは歌が主役です。
アドリブのスペースも大きくはないし、鬼気迫るソロも必要とされません。
地味にオススメです。

トロンボーンアンサンブル

これが、一番トロンボニストのマインドに向いた解決法なのかもしれません。みんなで「合力」して解決する、というスタイル。楽器として二番手三番手にまわるわけではなく、ソロも四人で割ればなんとかなる!という、他で提案した形態とは明らかに異なるフォーマットです。
僕自身はこの形態、あんまり好きじゃないので経験が少ないんですよね。なのでノーコメント。サウンドとしてはモゴモゴしがちなところがあります。

ジャムセッションにおいて

トロンボーンが沈むシチュエーションはよくあります。やる前から負けが確定の状況は頑張っても報われない。
ま「男には負けるとわかっていても戦わなきゃいけないことはある」という言葉もありますけど。

ピロピロ大会、ガチャガチャ大会

一番よくないのが、速い曲で、サックスの人やピアノの人がコールするゴリゴリのタイプの曲。 Moment's Noticeとか、A Night in Tunisiaとか。循環もだいたいそんな感じ。イキリ厨二病曲にご用心。
だいたいフロントが三人以上いる場合トロンボーンの優位性を保つのは困難です。
もちろん、自分なりにうまくアドリブできたらそれなりに満足感はありますが所詮は群像劇の一人みたいになっちゃうんですよ。

速い曲

トロンボーンの「速い曲」の限界、どれくらい?
BPM 240でも相当速いと思いますけど、サックスピアノの速い曲好きな人ってBPM 280とか300とか仕掛けること稀にあります。これはさすがにトロンボーンでは厳しい……

他の楽器と比較されて音数多いもん勝ちの状況はトロンボーンには不利です。ではトロンボーンに向いたシチュエーションってなんでしょうか?

フロントが少ない

他の楽器のフロントと直接対決が少なく、なおかつ、速くない曲で、空白を活かしたソロを吹くと「なんかいい感じ」となりやすいです。
フロントが二人でもまだいけます。サックスと二人なら、「静のトロンボーンと動のサックス」の図式に持ち込める可能性があるからです。
イメージは Prestigeのマイルスマラソンセッションです。

歌伴

前述の通りです。

バラード

バラードをうまく吹くには総合的に高い技術が必要だと思いますが、大きな意味をもつのは間をとる技術、メロディのニュアンスをカラフルに歌う技術であって、ピロピロする技術は必ずしも要求されません。
(もちろんピロピロはカラフルさの一つとして大きな武器だとは思いますが。)

ボサノバ

ボサノバもチルアウト前提の曲が多いので、素早いフレージングが必須ではありません。
ラテン・ボサノバの音源を聴いていると、小粋なトロンボーンが、随所に認められます。
Urbie Greenがお手本の一つだと思いますが、ゆったりした対旋律やバッキングをお手本にしましょう。

まとめ

アドリブの負荷の少ない演奏形態を提案しました。

ソリストとしては最終的に縦横無尽にアドリブを吹くようになりたいですが、(1)で述べたように、トロンボーンのアドリブはなかなか一朝一夕にはいかんのですよ。

段階を踏むというのは対策の一つですが、参考になれば幸いです。

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