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飛ぶ鳥と、飛べない鳥

白い羽を美しくはばたかせながら、
飛んでゆく白鳥を見送る。

強い輝きに出会うと、そんな錯覚に陥る。
白鳥は、気高く美しい。

そして、白鳥になれないわたしは、
地面から、恨めしそうに空を見つめる。

恨めしい、と思ってしまう自分すら
はしたない、と嫌悪する。

わたしには、
はばたける白い羽は、ないのだと知る。

ひとしきり嫌悪したあと、わたしはふいに気づく。

(わたしは、白鳥になりたかったんだっけ…?)

気高く、空を飛びたかったのだろうか。
いや、たぶん違うのだと思う。

わたしは「はばたけるように、羽をじたばたさせたい」と思っていた。

空へはばたく、というような明確な目標を
わたしは持ち合わせていなかった。

目標がないから、
よくわからないから、
まずは、バタバタしてみよう、と思いながら生きていたはずだ。

「白い羽ではばたこう」と、準備をしていた人には、きっと叶わない。
わたしはきっと、「じたばたしていたら、白鳥のように飛び立ててしまった」というような、美しい結果をもたらせるほど、よくできた人間ではないと、気づいている。
それなのに、目の前を往く白鳥に、わたしは目を奪われてしまう。

白くなくてもいい、と言い聞かせる。
ゆっくりとつぶやかれた言葉は、すっとわたしの心臓を守り、血液を正しく、安定した速度で循環させてくれる。
それは言い訳かもしれないけれど、わたしは自分の心臓も、羽も、むやみに傷つけたくはない。

黒い羽のカラスだって、いいじゃないか。
小さな羽と、まだら模様のスズメだって、かまわない。

白い羽を持っていたとしても、
わたしはアヒルでもかまわない。

わたしのふさわしい場所が、どこかはわからない。
確かに羽をはばたかせながら、地上でも低空飛行でも、わたしは、前へ進みたかった。
もっと言えば、後退でもよくて、きっと変わろうとし続けたかったのだと思う。
なにがわからなくても、どこかへ向かっているような、そんな素振りのわたしでありたかった。

たとえ、
白鳥のように気高く飛べなくても
季節を越えることが、できなくても。

恨めしい、と嫌悪した心と
はしたない、と感じてしまった惨めさを
わたしは大切に、箱の中にしまいこんだ。

この感情も、大切なものだと気づいている。
でも、隣に置き続けると、わたしの心臓が疲弊してしまうので、そっとしまう。
わたしは今日、見上げた空のことを、決して忘れない。

そうして、わたしの羽を、そっと確かめる。
そこにあるのだと思うのだけれど、何色かも、どんな大きさかも、自分ではよくわからない。

でも、両手いっぱい広げてみる。

わたしはそんな、精一杯を
毎日、できる限り繰り返して、生きていきたいだけだった。




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