正義のあたたかさ
あたたかいものが、美味しい季節になって嬉しい。
基本的に飲むことが好きなので、
水でも麦茶でもカルピスでも、なんでも飲む。
コーヒーはたっぷり淹れて冷蔵庫に押し込まれるので、だいたい冷たい。
それでも、ひんやりした季節の「あたたかさ」ってたまらない。
同じ温度でも、夏は「暑い」になってしまう。
「あたたかい」は、涼しい季節の特権のような気がしている。
*
あたたかさ、というと思い出す話がある。
友達の家が、浸水したときの話だ。
それはもう、浸水というのだろうか…
漏水?
上階から、水が降ってきたらしい。
わたしは人生で経験したことのない、不幸な事故だった。
そのときの話は、後に聞かされた。
不幸中の幸いという言葉は、あまり好きではないけれど
ちょうど、引っ越しを決めていたところではあったとか、
上階の人が蛇口を締め忘れた?とかで、とにかく彼女は何も悪くなかった、とか。
わたしは事後処理として、濡れてしまった靴の処分を手伝っていた。
気の毒だったね、以外の言葉が出ない。
彼女はそのとき、また別の友達に事の悲惨さを、リアルタイムで伝えていたらしい。
びしょびしょになりながら。
「とりあえず、シャワーを浴びなよって言われたの」と彼女はそのときのことを語った。
とにかく、気が動転していたし、管理会社の人にも連絡して
このあと、現場検証的なことも行われるから、来る人を待たなきゃいけない。
それでも、言われた通りおとなしく、シャワーを浴びたらしい。
「シャワー浴びたらね、すごく落ち着いたんだ」
あったかくなったし、と彼女は笑った。
わたしは、彼女のアドバイスをしてくれた友達に、感謝した。
そう、シャワーだ。
そう、あたたかいこと。
寒いときに、幸福を思い描くことは少し難しい気がする。
あたたかさが、守ってくれるのだ。
幸福に近づき、安寧を纏う。
あたたかさは正義なのだ、と
わたしはこの話を聞いて、確信した。
*
今日はもうダメかもしれない、なんて
3日に1回、
いや、2日1回は思いながら生きている。
でもわたしは、友達からもらった秘蔵の、ルピシアのティーバッグを取り出した。
1つだけ、のティーバッグ。
贅沢なそれを、マグカップに放り込んだ。
今日も確かに、
あたたかさはわたしを、守ってくれている。
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