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ひとり、水曜日の午後

困ったときは、いつもここだな。
わたしは、池の鯉に向かって、苦笑いする。

ここへ来るのは3度目なのに、
なぜだか「いつも」と思った。
そうだ、4月に来たときも、この辺りの席で眺めていた。
あのときは、花だったろうか。

わたしは静かに、日没を待っていた。

水曜日、わたしは壮大な計画を練っていた。
今季一度は諦めたことなので、「壮大」と言わせて欲しい。
前日からいそいそとリュックを引っ張り出し、必要なものを詰め込んだ。
日没を待つあいだ、寂しくならないように。紙とペンと葉書。
ペンはお気に入りのやつ。
もらったばかりのシャネルのアイシャドウも連れて行くつもりだ。

昼間には病院の予約があって、帰ってしまえば眠ること以外できなくなる。
わたしはいつもと違う行き先のバスに乗り込んだ。
「午前中の予約は混むかもしれません」と言われたのに、30分後には会計も終えてバスに乗っていたわたしには、時間が有り過ぎた。

よみうりランド前まで30分と言われたのに、気づいたら見知った観覧車が現れてびっくりした。

どうしても、よみうりランドのイルミネーションを見たかった。
今季も、逃したくなかった。
もう、友達と毎年通って、何度目の冬だろう。

今年は思うようにに身体が動かなくて、「約束をする」とか「しゃべりながら歩く」っていうのがうまくできなくて
ああ、じゃあひとりで来ればいいじゃないかって
やっぱりわたし、気づいてしまった。

HANA-BIYORIでカワウソを見たり、少し散歩をして
スターバックスで、ゆずシトラスティーに挑戦してみたら、妙に美味しくて
友達に手紙を書いて、少しだけ本を読んだ。
わたしは、日没を待っている。
池の鯉を見ながら、花を見ながら
あなたを、想いながら


4時半を過ぎて、わたしは歩き始めた。
ぐんぐんと歩いて、歩いて

今日は雨だけどべつにいいや、と思えたのは
よみうりランドの公式ツイッターに「雨の日ならではの楽しみがあります」って書いてあって


こんなきれいな写真は撮れなかったけれど

今年も確かに、はっと息を呑む。
ひとりでも、確かに

生きよう、と思った去年の冬を、忘れていない。

無職だっただけで、すこぶる元気だった去年のわたし。
それでも、先の不安がないと言えば嘘で
ひかりの中を歩いて、それが妙に美しくて
「生きよう」と思った。
「もうだいじょうぶ」とも。

わたしは、会いに来たんだ。

ひかりの中を、今もなお勇敢に歩きたかった。
あの日のわたしに、明日を信じるいまのわたしに
どうしても、会いたかった。
生きれるって思いたかった。いま、必要だった。

たくさんのひとにすれ違ったけれど、ひとりなのはわたしだけだった。
みんな大切な人と楽しそうで、すてきだな、って思った。
たぶん、わたしがいまひとりで平気なのは、わたしの大切な人は、家やスターバックスで待っていてくれるって、わかっているから。なんだかぜんぜん、寂しくなかった。

こういうところにくるなら、誰かと
なんて思っていたけれど。

ひとりの勇ましさを愛している。
ひとりは迷子にならないから。
約束と目的地を捨ててしまったあの自由さを、わたしは愛さずにはいられない。

でも次は、みんなで来たいね。
ペットボトルのコーヒーを買うと黒ひげ危機一発ができるってやつ、今年はじゃんけんだから勝率上がったような気がしたよ。
みんなでやりたいね。
ひとりでもやったけど。(そして負けた)

ひとりで座る場所を求めて、観覧車にも乗ってみたよ。
観覧車って苦手だと思って避けていたんだけど
乗ってみたら、やっぱり苦手だったね! これは大きな学びだよ。君たちも誘わないことにする。
あれは「地上に近づく安心感」と「地に足が着いていることのすばらしさ」を感じる乗り物だ、とわたしは思う。

ひとりでも、ぜんぜんへいきなんだ。
それでもやっぱり、次はみんなで来たいね。

その日まで生き延びるためのチカラを、
そう、自家発電しちゃったんだ。
水曜日の午後に。たしかに。

生きようって、思ったんだ。





最高なので、あなたもぜひ。




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