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幸福を重ねて
わたしは、悩んでいた。
次に塗る、ネイルのこと。
1週間前後くらいでネイルは落として、次の色に変える。
「次はこれにしよ〜」なんて浮かれているときもあるけれど、
ぐんと深く、悩んでしまうときもある。
つい先日、今年2度目のネイル断捨離を経て、手持ちの色はお気に入りばかり。
それなのに、選べずにいる。
ほんとうは気になる色があって、
先月、友達からもらったポールアンドジョーのピンク。
すごく可愛くて、塗るのを楽しみにしていたのだけれど
試し塗りをしたり、こっくりと濃い色で。
濃い色は、取扱いが難しい。
と、思う。
透け感のある色だと、多少伸びたり剥げても誤魔化しやすいし、
そもそも、塗るのも簡単なんだけど。
濃い色は、塗るのも難しい。乾くまでも、ちょっと時間が掛かる気がする。
剥げたら早めに塗り直さなきゃいけないなあ、
それは面倒だなあ、どうしようかなあ。
「かわいいんだよなあ」と、ピンクのボトルを手のひらで握ったり、ひっくり返したりしながら
わたしはひとり、部屋の中。
*
途方に暮れていたら、ノーテンキなわたしがピョコッと顔を出してきた。
どんなに落ち込んだり困ったりしても、
ノーテンキなわたしって奴は、絶対に死滅しないのでいつも驚く。
「去年買った、ジルのネイルがあるでしょう?」
ノーテンキは言った。
確かにある。
去年のクリスマスコフレ、発売日に友達の分と一緒に買いにいった。
最後の2本ですよ、と言われてにんまりとした、あのネイル。
ゴールドの、大きなラメの入ったやつ。
「剥げたら、その上に塗ったらいいよ」
ノーテンキは、やっぱりノーテンキそうに笑った。
*
それはいいかもしれない、と流されるように頷いた。
剥げてしまうのが寂しい、とか
剥げないように気をつけて生きてゆく、なんていうのは、なんだか疲れてしまうけれど。
そうね、少し経ったらジルを塗ったらいい。
お気に入りのときめきを
かわいいピンクに重ねると思ったら、なんと幸福なことでしょう。
寂しさや煩わしさから一転
幸福の重ね掛け
「それはいいわね」
今度はしっかりと頷いて、ピンクのボトルを開けた。
自分の爪先を見て
塗ってよかった、とうっとりとほほえむ夜は、妙に幸福だったと思う。
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