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幸福を重ねて

わたしは、悩んでいた。

次に塗る、ネイルのこと。
1週間前後くらいでネイルは落として、次の色に変える。
「次はこれにしよ〜」なんて浮かれているときもあるけれど、
ぐんと深く、悩んでしまうときもある。

つい先日、今年2度目のネイル断捨離を経て、手持ちの色はお気に入りばかり。
それなのに、選べずにいる。

ほんとうは気になる色があって、
先月、友達からもらったポールアンドジョーのピンク。

すごく可愛くて、塗るのを楽しみにしていたのだけれど
試し塗りをしたり、こっくりと濃い色で。

濃い色は、取扱いが難しい。
と、思う。

透け感のある色だと、多少伸びたり剥げても誤魔化しやすいし、
そもそも、塗るのも簡単なんだけど。
濃い色は、塗るのも難しい。乾くまでも、ちょっと時間が掛かる気がする。

剥げたら早めに塗り直さなきゃいけないなあ、
それは面倒だなあ、どうしようかなあ。

「かわいいんだよなあ」と、ピンクのボトルを手のひらで握ったり、ひっくり返したりしながら
わたしはひとり、部屋の中。

途方に暮れていたら、ノーテンキなわたしがピョコッと顔を出してきた。
どんなに落ち込んだり困ったりしても、
ノーテンキなわたしって奴は、絶対に死滅しないのでいつも驚く。

「去年買った、ジルのネイルがあるでしょう?」
ノーテンキは言った。

確かにある。
去年のクリスマスコフレ、発売日に友達の分と一緒に買いにいった。
最後の2本ですよ、と言われてにんまりとした、あのネイル。
ゴールドの、大きなラメの入ったやつ。

「剥げたら、その上に塗ったらいいよ」
ノーテンキは、やっぱりノーテンキそうに笑った。

それはいいかもしれない、と流されるように頷いた。

剥げてしまうのが寂しい、とか
剥げないように気をつけて生きてゆく、なんていうのは、なんだか疲れてしまうけれど。
そうね、少し経ったらジルを塗ったらいい。
お気に入りのときめきを
かわいいピンクに重ねると思ったら、なんと幸福なことでしょう。

寂しさや煩わしさから一転
幸福の重ね掛け

「それはいいわね」

今度はしっかりと頷いて、ピンクのボトルを開けた。


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自分の爪先を見て
塗ってよかった、とうっとりとほほえむ夜は、妙に幸福だったと思う。




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