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アネモネの横顔

アネモネが、また閉じていた。

「完全に開花するまで、閉じたり開いたりしますよ」と、おねえさんは言った。

ぐわりと開くアネモネを、わたしは愛している。

育てている、という感じがいいのかもしれない。
もちろん、開花状態で購入するガーベラとかスイートピーも好きだけど。

アネモネは、ぐわりと咲く。
立っていた花びらが、横たわるように咲く。
その様子が、たまらなく愛おしい。

数日前から開花に向かったアネモネは、日中に少し開き、夜には戻っていた。
昨日あたりには、まるで小さなコップのように、ふんわりと開きかけていた。

わたしが妖精なら
きっと、アネモネのコップで蜜を飲む。

そんな到底似つかわしくないことを考えてしまうくらいに、わたしはアネモネに夢中だった。
毎日、その横顔を見つめている。

今日のアネモネは、ずっと閉じていた。
部屋の電気は同じように点けていたけれど、小さなコップにならなかった。
数日前と同じように、小さく佇んでいた。

「閉じたり開いたりを繰り返す」というのは、
毎日、完全な開花に向かって大きく開いてゆくのだと、勝手に思い込んでいた。

昼夜は光、温度を理解したうえで、自ら適切に生きてゆく
アネモネのやさしさと賢さに、しみじみとしてしまう。

「今日はお休みですよ」

アネモネは、わたしの肩を叩いた。
「そうですね」と頷きながら、花瓶を磨く。
そういう日が、あってもいいですね。

「昨日より今日のほうが立派でなくても、構わないんですよ」
ぴったりと佇む花弁の隅から、声がする。

「いつかは、花開きますから」
わたしのペースで、とほほえみながら告げた横顔は、うんとやさしかった。





※今日のBGM




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