![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/73712878/rectangle_large_type_2_bbdd59c251176c797fac4cde0c9f443e.jpg?width=800)
アネモネの横顔
アネモネが、また閉じていた。
*
「完全に開花するまで、閉じたり開いたりしますよ」と、おねえさんは言った。
ぐわりと開くアネモネを、わたしは愛している。
育てている、という感じがいいのかもしれない。
もちろん、開花状態で購入するガーベラとかスイートピーも好きだけど。
アネモネは、ぐわりと咲く。
立っていた花びらが、横たわるように咲く。
その様子が、たまらなく愛おしい。
*
数日前から開花に向かったアネモネは、日中に少し開き、夜には戻っていた。
昨日あたりには、まるで小さなコップのように、ふんわりと開きかけていた。
わたしが妖精なら
きっと、アネモネのコップで蜜を飲む。
そんな到底似つかわしくないことを考えてしまうくらいに、わたしはアネモネに夢中だった。
毎日、その横顔を見つめている。
*
今日のアネモネは、ずっと閉じていた。
部屋の電気は同じように点けていたけれど、小さなコップにならなかった。
数日前と同じように、小さく佇んでいた。
「閉じたり開いたりを繰り返す」というのは、
毎日、完全な開花に向かって大きく開いてゆくのだと、勝手に思い込んでいた。
昼夜は光、温度を理解したうえで、自ら適切に生きてゆく
アネモネのやさしさと賢さに、しみじみとしてしまう。
*
「今日はお休みですよ」
アネモネは、わたしの肩を叩いた。
「そうですね」と頷きながら、花瓶を磨く。
そういう日が、あってもいいですね。
「昨日より今日のほうが立派でなくても、構わないんですよ」
ぴったりと佇む花弁の隅から、声がする。
「いつかは、花開きますから」
わたしのペースで、とほほえみながら告げた横顔は、うんとやさしかった。
※今日のBGM
スタバに行きます。500円以上のサポートで、ご希望の方には郵便でお手紙のお届けも◎