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手紙

君に伝える言葉がわからなくて、こうして手紙みたいにして話してみることにしたよ。

僕は、これが君に届くことを望んでいない。
僕にとって、戒めみたいに
いや、僕らしく言うならば「呪いみたいに」
この感情が残ればいい、と思っている。

これは、僕に宛てての手紙かもしれない。
あのころの、
そして未来で、惑い、意地を張る僕に宛てて

「で、どうだった?」と尋ねられて、僕は無難な返事をすることしかできなかった。
長文のメッセージを送ることは憚られた。
到底伝わらないと思ったし、
正直なところ「何を伝えるべきか」悩んでいた。

「うた、うまくなったね」
僕なんかよりよっぽど君のほうがさ、もとからうまいけど。
「うた、うまくなってるといいな」て、君言ってたから。
で、僕も素直に「うまくなったなあ」て思ったから、それだけ伝えることにしたよ。
後天的で、圧倒的な努力で身につけたものである、と思ったからさ。
ほんとうに、すばらしいことだよ。誇って欲しい。

僕は、君より歌がうまくないけど
僕は、自分の歌が嫌いじゃない。
そりゃあ、うまくなりたいし、それのためには努力しかないとか、そういうことはわかっているから、一旦置いといて話をしてみてもいいかな。
こんな前振りをしながらだったら、直接君と話せるならば、僕はもう少し多くの言葉を紡いだだろう。
その言葉を、ここに書き留めるつもりだ。

「僕は、君より歌がうまくないけど
 僕は、自分の歌が嫌いじゃない」
この言葉の裏側の意味を、考えている。
答えはなかなか、難しい。
「君になくて、僕にあるもの」が存在していると思うのだけれど、それを言語化できない。

僕は一体何を求めているんだろう。
そのひとつを言葉にするならば「感動」のような気がする。
のであれば、「僕は一体何に感動するのだろう」とか、「何を以て感動とするのだろう」に答えが必要なんだけど、ここがうまくいかない。

うまくいかない以上、君に伝えるのは難しい。

「君に足りないものがある」と言ってしまうのは、簡単だった。
もちろん、良いところと併せて「気になるところ」を述べることも、物理的には可能だ。
僕はそれを、君に対する「不安要素」だと認識している。
そしてまたこれが、難しい。

君にとってこれが「不安要素」に当たるのかどうか、という点だ。

そしてこれを答え合わせするためには、「君の目指すもの」を確認しなければならない。
それがわからずに僕が勝手な意見を述べるのは、なんだか違う気がする。
必要のない苦味を、僕は君に与えたくない。
別にやさしいわけじゃなくて、「言わなきゃよかった」なんていう僕自身に、僕が会いたくないだけだ。

確か、君はサッカーをやっていたって言ってたよね?
僕が「ホイッスル」と「ファンタジスタ」の漫画で仕入れた知識だけで語るのは大変恐縮だけど、わかりやすそうな例として。

たとえば、君の練習風景を観て「どうだった?」と尋ねてくるとしよう。
そのとき僕が、「もっと点を取りに行くことを意識したほうがいいよ」と述べたりする。

でももし君が目指しているのが、ゴールキーパーだったら?
僕のアドバイスは、まったくの的外れとなる。そういうこと。

だから、「君の目指すもの」を知ったあとに、話をしたいと思ってるんだ。

「正直なところ、ゴールキーパーをやるべきか、別のポディションをやるべきか悩んでいる」というならば、相談には乗りたいと思っているので、そう言って欲しい。

でも、その前に一度君も、よく考えてみてほしいんだ。

君が僕に望むことは、「一緒に考えること」なのか「背中を押してもらうこと」なのか。

もし君が心の中で、「実はゴールキーパーって決めてるんだ」って強く思っているとき
でもそれを他人に話せないとき(そういうときって、あると思う)
僕が、「点を取ること」の話を延々としたって、君には響かないだろうと思う。

君が考えた結果「やっぱりポディションを”本気で”決めかねている」のであれば、僕もあらゆる選択肢を提案しよう。
そのときはすなおに、「でも」とか「だって」とか言わずに、話を聞いてくれよ。

「褒めて欲しいときは、そう言え」と言われたことがある。
なんと傲慢で身勝手なのだろう。
そして「言えるわけがない」と思っていた。ずいぶん昔の話だ。

いまでは、僕にとって大切な言葉になっている。

言葉ってのはいろいろあるし、会話ってのもいろんな報告を向くけれど、人は心の裏側で「欲しい答え」をどこかで待っている。
その答えを告げることも、求めることも、僕は悪いことだと思っちゃいない。
僕は褒めて欲しいときには、そういうようにしている。「うた、うまくなった?」とか「いいのができた」とか、「今日のワンピースかわいいんだよ」とか。
いや、もうこれだけ言うと、僕ってずいぶん身勝手で前向きな人みたいだけど、その通りだと思うので否定しない。

話が長くなってしまったけれど、僕が君にメッセージを送らなかった理由を総じて言えば「君の理想を知らないから」これに尽きる。
あとは余談だったね。
まあこれは、未来の僕宛てでもあるから、許して欲しい。
僕もほんとに、呪いみたいにこの夜を覚えていたいんだ。
どうせ惑う未来で、溺れないように。
僕も、「なりたい自分」だとか「なにをつくりたい」とか「なにに感動をするか」っていうのを、しっかり紐解いてゆきたいと思ったからね。

僕ってばまぬけだから、
悩むときの理由の第1位が「どこへ行きたいかわからない」だから、笑っちゃうよ。

こういう話はやっぱり手紙にするべきじゃないから、
こんな僕とでも「話したい」と君が望むなら、連絡をして欲しい。
僕は君に話すべきか、悩んでいる。

僕にとっては「危ない橋」に見えるものを、君が「希望の船」と信じ、その先のしあわせを掴みにいく途中なのであれば、口を出したくはないんだ。
ただ、友達を大事にすることだけは忘れないで欲しい。
これを忘れたやつを、僕はずっと許せない。
かんたんな言葉で言えば「一緒に仕事をしたい」と思われるような当然の礼儀と思いやりを、忘れないで欲しい。
僕は本当に適当でクズだけど、礼儀や義理は重んじてるつもりだ。……僕なりに。

友達を大事にする方法ってなんだ?と思うかもしれない。
もう、大事にしているよ、というかもしれない。

「でも」と「だって」が口癖になっていないかい?
友達が真摯に語ってくれるアドバイスを、「ありがとう」と君も真摯に受け取っているかい?
それが、どれだけ的外れなものでもさ。
もしその友達の事を大事に思うならば、一度受け取って欲しい。
その言葉と旅をして欲しい。
そういうふうに、友達を大事にして欲しい。

これが、僕の妄想や杞憂で終わることを願っている。そうだよね?

長くなってしまったけど、と言ってからまた長いのが、僕の手紙の悪いところだね。
最後まで付き合ってくれてありがとう。

そういえば、少し前もこんな手紙を書いた気がするよ。
僕の大事なことって、変わってないのかもしれない。

「君がしあわせならばそれでいい」と言うこと
それは「君が、君自身のしあわせを見つけなければいけない」ということ
そして「必要であれば手助けをさせて欲しい」ということ。
どんな選択の中でも、友達のことは大事にして欲しい、ということ。

ああ、最初からこれだけ書けばよかったな。



【photo】 amano yasuhiro
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