夢を見る者
どんなふうに書いていたんだろう、と思う。
スクロールする。
スマートフォンのメモ帳を
自分の書いたエッセイを
書きたいことは、画面の先にあるんじゃない。
わたしの暮らしの中にあるんだ。
などと、思ったりして、笑ってしまう。
いいんだよ、どこにあっても。
画面の中のわたしは、ちょっと前のわたしで
思ったことをすぐ、エッセイにすることができないから、ただ預けているだけで。
言葉は、どこにでもある。
画面にも、ラナンキュラスの横顔にも、昨日のおしゃべりにも、明太子入りのオムレツの中にも
必ず、ある。
そういえば、眠る前にこんなことを思い出していた。
今日は、3度くらい昼寝をしたので、そのうちのどれかに。
ときどき、思い出す話がある。
*
「夢は、買うものじゃなくて、売るものだ」
なんて言っていたらしい。
18歳くらいの、わたしが。
「宝くじを買うんだ」と言っていた母親に、言い放ったわたしは格好良かった。
希望に満ち溢れ、怖いものなんてなにもなかった。
思い返せば、本当は怖かったと思う。
東京に行くことも、一人暮らしをすることも、大学に行くことも。
でも、無敵だった。
負ける気がしなかった、
このときのわたしを、そのせりふを、母が好いてくれている。
いまでも、わたしたちの大切な思い出だ。
母は、いまでも宝くじを買っていると思う。
*
隣の町に、タワーマンションができるらしい。
ゲストルームとか、入居者が使えるオフィスとか、そういうのを兼ね揃えた
あれはひとつの、街だと思う。
間取りやら設備を見てわくわくして
値段を見て絶望した。
そしてあの建物の近くにあった、宝くじ売り場を思い出した。
*
宝くじを買うかもしれない、と思う。
結局まだ、買ったことはないけれど。
もう、いつ買ってもおかしくないと思う。
このあいだ「10万円当てた」って話を、聞いちゃったし。
わたしの欲しいものって、高額でも20万くらいだから(パソコンと冷蔵庫と洗濯機かな)
10万円あると、すごく助かる。
宝くじを買うより、毎月1万円貯金すればいいのにね。
1万円がむりなら、5000円だっていいのに。
そっちのほうがよっぽど、現実的なのに。
わたしはいま、夢を買おうとしている。
*
18歳のわたしが見たら、軽蔑するだろうか。
怒るだろうか。
たぶん、どちらかな気がする。
確かに、あのころよりおとなになった。
大学も行って、なんとか卒業して
友達も恋人もできた。
友達は今までもいたけれど、恋人ができたのは人生で初めてだった。
初めてのことがたくさんあった。
ライブをした、やっぱり夢を見た、ときめきをたくわえて、ぐんぐん成長した。
はじめてステージに立ったあの感動を
もう一度手にすることは、できない。絶対に。
それでも、わたしは夢見てる。
次の何かを作ろうと、虎視眈々と狙っている。
覚えている、まだ忘れていない。
良い記憶が残っている。
ハチミツとクローバーのせりふ。
きちんと、残っているから。
*
宝くじは、買うかもしれない。
でも、夢を見せることも見ることも、
もしかしたら、売るほどの夢にならないかもしれないけれど。
ぜんぜん諦められずにいる。
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