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神様のこんぺいとう

「これ、誰のお土産?」

会社の、お菓子置きのひとつを取って、そのひとは言った。
不思議な形のプラスチックーーーあれはなんて言うんだっけ? 三角錐? に入った色とりどりの青を持ち上げながら、首をかしげる。

ずうっとあって、誰も食べない。
会社のお菓子置きだもの、個包装で食べやすいやつからなくなってゆく。
お中元とお歳暮で届く「ありがとう」と書かれたマシュマロは、おいしいけれど不評だった。
個包装になっていなくて、たくさん入っている。ひとり5個食べてもなくならないかもしれない。
お中元のときは、「夏休みに食べなさい」と言われて、わたしが引き取ったんだっけ。

その、マシュマロのとなりにあった。
色とりどりの青、こんぺいとう。

会社には、お土産のお菓子と一緒に「福利厚生のお菓子」があるから、我々は食に困らない。
だから誰も、三角錐の(もちろん個包装ではない)金平糖を、開けたりしなかった。

「それはね、神様の金平糖だよ」

社長の声が、上のほうからすうっと響いた。
かみさまの、こんぺいとう。

「年始のお参りに行ったときのさーーー」という話で、そのあとはあまり聞こえなかった。
言葉はそれ以上、聞かなくてもよかった。

神様のこんぺいとう、色とりどりの青。
金平糖って、甘くて、ときどきお風呂みたいな味がして、あんまり美味しくないって思ってた。
でも、「神様の」ってついたら、やたら興味が湧いてきた。

「わたし、食べます」
迷う暇なんてなくて、すうっと手を挙げた。

青を、がりっと砕く。
ふわっと甘く、ラムネみたいな、フルーツみたいな味がする。
雑味はない。
味のついた、甘いこんぺいとう。
美味しくってびっくりした。
おとなになって、おいしいものが増えた。
それは「子供のほうが味覚が繊細だから」という話もあるけれど、いろんなものが美味しくなったのだ。
わたしは、この世に生まれたばかり(またはわたしが知り合ったばかり)の、マンゴーも杏仁豆腐もマカロンも嫌いだった。
あれは気づいたら、おいしくなっていたのだ。コンビニ弁当みたいに。

こんぺいとうも、こんなにも甘い。
ただただ、甘い。
甘さはまろやかに溶けて、すうっと染み込んでゆく。

さっきまでのいろいろも、さあっと溶けてゆく。
溶けた糖分は、わたしのエネルギーとなんて動き出す。
一瞬のうちにわたしは、「だいじょうぶなわたし」に衣替えする。

神様の、こんぺいとう。
その響きに、色とりどりの青に、小さくかわいらしいその姿に、うっとりとする。

ばかみたいだ。
ただの砂糖の塊なのに。それなのに。

わたしが投げやりになったときにはどうか、
こんぺいとうを食べさせて欲しい。


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