神様のこんぺいとう
「これ、誰のお土産?」
会社の、お菓子置きのひとつを取って、そのひとは言った。
不思議な形のプラスチックーーーあれはなんて言うんだっけ? 三角錐? に入った色とりどりの青を持ち上げながら、首をかしげる。
ずうっとあって、誰も食べない。
会社のお菓子置きだもの、個包装で食べやすいやつからなくなってゆく。
お中元とお歳暮で届く「ありがとう」と書かれたマシュマロは、おいしいけれど不評だった。
個包装になっていなくて、たくさん入っている。ひとり5個食べてもなくならないかもしれない。
お中元のときは、「夏休みに食べなさい」と言われて、わたしが引き取ったんだっけ。
その、マシュマロのとなりにあった。
色とりどりの青、こんぺいとう。
会社には、お土産のお菓子と一緒に「福利厚生のお菓子」があるから、我々は食に困らない。
だから誰も、三角錐の(もちろん個包装ではない)金平糖を、開けたりしなかった。
「それはね、神様の金平糖だよ」
社長の声が、上のほうからすうっと響いた。
かみさまの、こんぺいとう。
「年始のお参りに行ったときのさーーー」という話で、そのあとはあまり聞こえなかった。
言葉はそれ以上、聞かなくてもよかった。
神様のこんぺいとう、色とりどりの青。
金平糖って、甘くて、ときどきお風呂みたいな味がして、あんまり美味しくないって思ってた。
でも、「神様の」ってついたら、やたら興味が湧いてきた。
「わたし、食べます」
迷う暇なんてなくて、すうっと手を挙げた。
*
青を、がりっと砕く。
ふわっと甘く、ラムネみたいな、フルーツみたいな味がする。
雑味はない。
味のついた、甘いこんぺいとう。
美味しくってびっくりした。
おとなになって、おいしいものが増えた。
それは「子供のほうが味覚が繊細だから」という話もあるけれど、いろんなものが美味しくなったのだ。
わたしは、この世に生まれたばかり(またはわたしが知り合ったばかり)の、マンゴーも杏仁豆腐もマカロンも嫌いだった。
あれは気づいたら、おいしくなっていたのだ。コンビニ弁当みたいに。
こんぺいとうも、こんなにも甘い。
ただただ、甘い。
甘さはまろやかに溶けて、すうっと染み込んでゆく。
さっきまでのいろいろも、さあっと溶けてゆく。
溶けた糖分は、わたしのエネルギーとなんて動き出す。
一瞬のうちにわたしは、「だいじょうぶなわたし」に衣替えする。
神様の、こんぺいとう。
その響きに、色とりどりの青に、小さくかわいらしいその姿に、うっとりとする。
ばかみたいだ。
ただの砂糖の塊なのに。それなのに。
わたしが投げやりになったときにはどうか、
こんぺいとうを食べさせて欲しい。
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