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煙草と呼吸

急にむせ返って驚く。
言葉通り、急に、げほげほと慌てて息を吐く。

煙草のせいかなと思ったけれど、火の点いた煙草はキッチンの灰皿の上。
わたしは自室に置いてあったスマートフォンを取りに来たところだった。
しばらく立ち止まって、キッチンに戻る。そしてまた、息が詰まる。

褒められたものでないことは重々承知しているけれど、「煙草を吸う」ということは「息を吸う」ということだと思っている。
いまわたしは何よりも確実に、呼吸をしている。
自分の体にイレギュラーが生じたとき、「煙草のせいなのか」というのは、案外よく分かる。
合っているかはわからないけれど、たぶんそうだと思う。煙草のせいじゃない。

他に思い当たることもなくて、また慌てて吐き出す。
吐き出された自分の声を聞きながら、「苦しそうだなあ」と思う。
まるで、他人事みたいに。
むせていることを除けば、すこぶる元気だった。

げほげほと息を吐きながら、思う。
ああ、ついでにわたしの中の「いらないもの」も、吐き出されちゃえばいいのに。

「自分にとって、”いらないもの”がわかっているの?」

声が聞こえて、ハッとする。
わたしの声だった。わたしが発したわけじゃないけれど、よく知っている笑い方だった。

「いや」
コーヒーを飲んで、小さく首を振る。
「わかっていないんだ」
いらないものが何かということ以前に、いらないものが存在しているかどうかですら、わかっていなかった。

「それじゃあ、そんな都合よく吐き出せるわけないよね」と、また笑い声が聞こえる。

その通りだ、とわたしは頷いて、煙を吐き出すだけだった。
コーヒーを飲んで、「いまは飲み込むしかない」と、小さくつぶやいた。




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