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靴下の夢

今日あったこと、という話を、わたしは一生懸命に聞いていた。
夜、わたしたちは話をする。
たいしたことがあったり、なかったりする。

今日は「たいしたことのある」みたいな話で、わたしはえらそうにアドバイスをしていた。
ついつい、おせっかくになってしまう。助けたい、と思ってしまう。
懲りないなあ、まぬけだなあ。放っておけばいいのに。

だからわたしは一生懸命のはずだったのに、気づいてしまった。
リビングの、靴下。
サンタさん用に、もう何週間も前から吊るしてあったやつ。

その靴下が、ふくらんでいるように見えた。
なにか、入っている。

話が終わるころに、そのひとは言った。
「駅前でサンタに会ったんだよ」
「それで、頼まれた」と言いながら、靴下の中にがさがさとお菓子を詰め込んだ。

今年はお菓子以外がいい、というわたしのメッセージは届いていなかったらしい。
そういうこともある。

「お菓子は、食べられないよ」と、わたしは言った。
特定のものしか食べられないし、食べたところで味がわからないから「おいしい」って言えないよ。
「これは食べられると思ったんだけどなあ」なんていうまぬけな顔に、少しだけ腹が立つ。
ぜんぶ、試している。
そして、吐いている。
あとは「まあ食べられなくないけどおいしくはないもの」しかなかった。
だから、だめなんだよ。
もう、食べれないって苦しむのはいやなんだ。
だから、言ったじゃないか。

でも、激しく怒ったり悲しんだりしたらだめだ。
せっかくサンタさんがくれたんだから。
わたしは、笑わなくちゃいけない。
そんなふうに、思っていたのに

この物語には、続きがあった。

「サンタさんが君にあげたかったのはね、お菓子そのものじゃなくて。
 “プレゼントでいっぱいになった靴下”なんだ」

そんなふうに言われたら、笑うしかないじゃないか。
靴下を振り回して、最後のひとつの飴まで取り出して。
ありがとう、サンタさん。
今年、良い子でいられたかわからない。生きるので精一杯だったけれど。
来てくれて、ありがとう。

膨らんだ靴下って、わたしの夢だったよ。
叶えてくれて、ありがとう。




※靴下を飾ったときのはなし

※困ったものをもらってしまったときのはなし



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