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ふたつのケーキ

「君の好きなケーキを買ってきたよ」
差し出されたのは、スーパーの2個入りのケーキだった。
ショートケーキがふたつ。

いちごが、雪みたいな粉砂糖の上に小さく佇んでいる。
ほんとうに、比喩じゃなくて、小さい。

スポンジ、
生クリーム
あいだに挟まっているのは、いちごじゃなくてジャム。
あれはもう、ただのいちごジャム。

そういうケーキだった。
そういうケーキは必ず2個セットで、黒いトレーのプラスチックの上に並んでいる。

「どうして、こういうケーキは2個セットなんだろうね」

尋ねられて驚いた。
そんなこと、考えたこともなかった。
考えたこともないことを尋ねられるのは、少し楽しい。

少し考えたあと、
「ひとつをケースに入れるのは面倒だからじゃない?」
と、答えてしまっていから「違う」と気づいた。
ショートケーキの隣には、三角のケースにひとつ佇むミルクレープが並んでいたような気がする。
でも、三角のケースより四角のケースのほうが利便性が高そう。運びやすそう、積みやすそうだから、理由のひとつにしてもいい気がした。

次は、「ケーキは、ひとりで食べることが少ないからじゃない?」と答えてみた。
わたしは今日、すごーーーく久し振りにケーキを食べる。
甘いものは好きなので、アイスとか、シュークリームとか、プリンは食べたりする。
でも、ケーキってあんまり食べない。
そう、ひとりのとき食べない。
誰かと一緒に、特別なときに食べるのだ。
だから結果的に、あんまり食べない。

そしてそれは、すごく筋の通った説明のような気がしたけれど
今日、わたしはひとりでケーキを食べる。

ショートケーキをここまで運んでくれたひとは、甘いものが食べられない。
わたしはそのことをわかっていた。
でも、「ケーキを買ってきて」と言った。
そういう日が、あるのだ。

「ひとりでケーキを食べたいときは、ケーキをふたつ食べたいときだと思う」

ケーキ屋さんのきらびやかなケーキでもなく
コンビの贅沢スイーツでもなく
スーパーの特売ショートケーキを選ぶ、その心は
そう、きっとそう。

「なるほど。どれも正しい気がしてきたよ」
神妙に頷かれた声と共に、ケーキは冷蔵庫へとしまわれていった。

それは予感だった。
わたしは今日、ケーキをふたつ食べてしまうのだろう。



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