小さな波
遠回りをした。わけもなく。
そのまま帰るのにはもったいない気がして、遠回りの電車に乗った。
迂回というやつで、このルートでも帰れるのだけれど、まったくの無駄だった。時間は倍以上かかるし、せっかく買った定期も使えず無駄になる。
時には、そういった非日常が必要なのだと思う。違う道のりで、目に映るものひとつひとつが新鮮で、どこか不安で……
ただ、遠回りをしよう、と思ったわたしの心は浮き足立った。
いつもと同じように働いただけなのに、なぜだか今日が特別な一日のように思える。旅したわたし。乗り越えたわたし。きちんと挑戦して、夢を叶えた。本当にささやかだけれど
このあと、バスに乗って帰る。
暗闇をすいすいと吸い込まれてゆくように抜けてゆくことが、楽しみでならない。
「どこかへ連れて行って」と言ったことを覚えている。
淡々とした日常が恐ろしかった。すべてから目を背けたかった。
「遊園地にでも連れて行けばいいの?」と言われたことも、覚えている。
本気だったのか、親身だったのか、呆れられていたのかは、今となってはわからないけれど。手を引いて欲しいと、望んでしまったことは事実だった。
今宵、非日常を歩く。
日常のすぐそばにあって、大きな冒険でなくても、きちんと心に波を起こす。今日のところは、わたしひとりの力で。
あの頃のわたしにも、教えてあげたかった。
欲しいものは、すぐそこにあって(ほんの少し何かが違えば充分だってこと)
目を背けても、わたしはわたしだってことを。
スタバに行きます。500円以上のサポートで、ご希望の方には郵便でお手紙のお届けも◎