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君に伝えたい百の言葉

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あなたに伝えたい言葉が残っている。見失っても、百個積んだ先に何かがあるかもしれない。光を追う者のエッセイ集
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2021年4月の記事一覧

誰かを「羨ましい」とおもうとき

羨ましいなあ、と思っていた。 そんなふうにできて、いいなあ、なんて気持ちを、ぷかぷかと心の海に浮かべながら、わたしは眠りについた。 * いいなあ、なんて誰かを羨んだりしてしまうとき わたしの心は、だいたい2種類の方向に傾いている。 そうなのではないか、と、目覚めの一服をしながら考えた。 ひとつは、「わたしだってそうしたいのに」という気持ち。 わたしができなかったり、我慢したりしながら、どうしても手に入れなかったものを、持っている人を見たとき。 もうひとつは、「わたしは

ゆっくりでも、少しずつ遠くへ。

兄の家は、隣駅なのに遠い。 お互い、駅から10分のところに住んでいて その10分は、お互いの家を逆方向の先にある。 電車に乗れば1駅だけど、待ち時間や電車賃を考えたら、歩いて行ったほうが絶対にいい。 Google Mapでも、迷わず徒歩が選ばれる。 兄の家まで伸びた3つの経路を確かめてみたけれど、すべて「26分」と表記された。 電車だと、24分。 2キロ、26分。 わたしは時折、その道程を歩く。 兄の家に「遊びに行く」ことはほとんどない。 わたしは病弱な兄に、お見舞い

仕返しサンタさん

「ええええええっっっ」 朝8時30分、 身支度を終えて、部屋に戻ろうとドアノブに触れたその瞬間。 わたしはひとり、悲鳴を上げた。 ドアノブにぶら下がっていたのは、わたしの推しポケモン(マホイップ)だった。 今回、マホイップのカラーバリエーション7種が発売されて、わたしは激しく悩んでいた。 7種ぜんぶは買えない。 ぜんぶかわいい。 この中から1つを選ぶなんてむりだ。 もう一度言う、ぜんぶかわいい。 ポケモンセンターに実物を見に行ったけど、やっぱりかわいい… いちばん気にな

わたしはひとり、この場所を訪れた。

思い描いた景色に、たどり着こう。 わたしの想いは、たったひとつだった。 * 海を見たい、と思った。 別にわけもなく、波の音にふれてみたい、と思った。 海はわたしの、非現実の象徴のひとつなのだと思う。 川辺で生まれ育ったわたしは、海を知らない。 川で泳いでいたわたしは、海水浴をほとんどしたことがない。 だから、海を見るといまでも思う。 「ずいぶん遠くまで来たな」 「世界には、こんな景色もあるんだな」、と。 仕事を切り上げて海に向かうことはできなくても、休憩時間に電車の

わたしのこども部屋

この家には、一畳分だけラグがある。 床には何も敷かない、というのが、長年のわたしの信条だった。 どうせわたしは、コーヒーをこぼすことがわかっていた。 何より、床を愛していた。 だから、暮らしや部屋を整えようと思ったときに「ラグが欲しい」と思ったときの気持ちは、もう思い出せない。 でも、どうしても必要だと信じていた。 それは、冬が迫る10月のことで、寒かったからかもしれない。 ベッドにもソファーにもデスクにも座りたくない、と思っていた。 もしかしたら、「大好きな床に座るため

たとえ、美しくなくても

ムカつくことがあった。 言葉は乱暴だけど、この表現がピッタリだと思う。 わたしは、腹を立てていた。のだと思う。 それは、1ヶ月以上も前の出来事だけれど、洗濯物を干しながら思い出し、やっぱりむかむかした。 いつもよりゆっくりと煙草を吸ってみたのに、その感情は消えなかった。 わたしは、腹を立てていたのだ。 1ヶ月前、それはわたしがいない場所で起こった。 事の顛末を聞き、わたしはふうっと煙を吐いた。 「起こってしまったことは仕方がない」というようなことを、言ったと思う。 「だ

孤独な冒険

この駅に着いたのは、ほんとうに偶然だった。 友達と、歩いていたらこの駅だった。 そしてここは、「いつか歩いてみたい」と思っていた場所だった。 ここから、家まで。または、家からここまで。 家までの道は、おおよそまっすぐであることは知っていた。 「バスで帰ろうかな」と、友達が言う。 バスが好き、という気持ちはよくわかるし、わたしは彼女の「バスが好き」なところも、大変に好きだと思った。 じゃあ、とわたしは言う。 「わたしは歩いて帰ろう」 別に何を話したわけでもない、という時間

2014年からの贈り物

「散歩をするといいよ。日のひかりを浴びるの」 そう言われたことを、いまでも覚えている。 そしてそのときのわたしが、ほとんど散歩をできなかったことも。 あのとき住んでいた中野の風景を思い出すと、いつも曇り空だってことも。 * 骨が折れていたときの話だ。 折れていた、というのは実際のところ比喩で、わたしの骨は”剥がれて”いた。 剥離骨折、というやつらしい。 ひどい打撲だなあ、と思っていたら、骨折していた。 1度目の病院のときに、骨折を見つけてもらえなかったのか、実際に骨

すこやかな背中

今日はなんだか、眠たかった。 寝起きのエスカップで「大丈夫」と思えたけど、午前中はやっぱり眠かった。 会社の昼休みでたくさん寝てみたら、午後はやっぱり大丈夫な気がしてきた。 それなのに友達の部屋に着いても、なんだか眠たくて不思議だった。 何かを少し動いて、「大丈夫」と思って、でも机に突っ伏するのを繰り返していた。 ばんごはんを食べたら、もう動けない。 テレビから「カリオストロの城」が流れているのを横目で見ながら、わたしはテーブルにへばりつく。 もうダメだ、と思ってソファ

ありふれた日々

仕事が終わると、「寄り道用」の電車に乗る。 最近はいつも、そうしている。 仕事のあと「決まった場所」とか「決まった時間」の何かがない限り、わたしはふらふらとする。 思考は好きだけど、決断は苦手だ。 ということを、しっかりと意識できるようになった。 「どうしようかな」って考えると面倒になってしまうので、何もない日は散歩をすると決めている。 今日は、楽器屋さんに行こうと思った。 久し振りにピアノの楽譜を見たいなあ、と思って。 楽器屋さんに行くには、いつもの散歩ルートを外れ

365

宛てのない旅に出たね。 おかえり。 2020年4月2日 noteの連続更新365日を迎えました。 むりだと思っていた。 わたしはマメなタイプじゃないし、飽きっぽいし、 そういうひとじゃないと思っていた。 2020年3月31日に、アルバイトのクビ宣言を受けました。 2020年を迎えたあたりから、わたし考えていたんです。 このままでいいだろうか、って。 何か仕掛けなきゃって。 それで、noteの更新を頑張ろうって思っていた時期だったと思います。 ピアノ日記のはじめての更

だれでもないわたし

おとなになって、少しずつ解像度が上がってゆくというか、“あるべきものが、あるべき場所”に戻ってゆくような感覚がある。 あるとき、くしゃみをしていたら「寒いの?」という問い掛けと同時に、「上着を着なさい」と言われたことがある。 わたしはそのときまで、「くしゃみをするのは、寒いからかもしれない」とも、「寒いなら上着を着ればいい」とも、思えていなかった。 ただ、くしゃみが出るなあ、と思っていた。 いまではくしゃみをすると、寒くないかを確認できるようになった。 季節のイベントは、