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クッキーはいかが?

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1200文字以下のエッセイ集。クッキーをつまむような気軽さで、かじっているうちに終わってしまう、短めの物語たち
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2022年9月の記事一覧

こんにちは

それは、花を買った帰り道だった。 コンビニも、本屋も、コーヒー屋も華麗にスルーしたわたしは 最後に、花屋に吸い込まれる。 そうして、ひとつかふたつ花を選んで すっかり顔見知りになったお姉さんたちと、少し話をする。 天気のはなしとか ときどき洋服を褒めてもらえたり 最近は、かばんにぶら下がっているポケモンのはなしだったりする。 「いつもありがとうございます」に 「また来ます」と返す。 * 花は、袋に入れない。 花屋と自宅が近いこともあるけれど、抱えて帰りたい、と思う。

めんどくさいは、本音を隠している

「”どうして?”って、尋ねるようにしているんだ」 電話から、パンさんの声が漏れ聞こえてくる。 パン屋の近くに住んでいたパンさんとは、一度だけ会ったことがある。 もう何年も前で、顔も思い出せない。 パンさんは子育ての話をしているようで、「尋ねるようにしている」とそう言っていた。 パンさんのことはあまりよく知らないけれど、子供を育てているような姿があまり想像できなかった。 でもきっと、子供を育てているような想像ができる友人、というのが少ない。 わたしたちは子供のときに知り合っ

ふたつのケーキ

「君の好きなケーキを買ってきたよ」 差し出されたのは、スーパーの2個入りのケーキだった。 ショートケーキがふたつ。 いちごが、雪みたいな粉砂糖の上に小さく佇んでいる。 ほんとうに、比喩じゃなくて、小さい。 スポンジ、 生クリーム あいだに挟まっているのは、いちごじゃなくてジャム。 あれはもう、ただのいちごジャム。 そういうケーキだった。 そういうケーキは必ず2個セットで、黒いトレーのプラスチックの上に並んでいる。 「どうして、こういうケーキは2個セットなんだろうね」

いくつもの帰り道

映画を見るために、迂回した。 「どこでも見られる」タイプの映画じゃなくて、限定されたところでしかやっていなかったから わたしは、電車に乗った。 電車に乗ることを面倒、だと思うわたしもいるのだけれど 根本的に「乗り物が好き」だということを思い出す。 乗り慣れない電車はそわそわする。眠れない。 座るときもどきどきする。 見えるところに路線図があるか、確認しちゃう。 それってやっぱり、疲れるんだと思う。 でも、そわそわして浮かれちゃう。 浮かれちゃうってことは、楽しいんだと思