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クッキーはいかが?

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1200文字以下のエッセイ集。クッキーをつまむような気軽さで、かじっているうちに終わってしまう、短めの物語たち
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2021年9月の記事一覧

そうしてまた、わたしの速度で歩いてみる。

歩けない、と気づいたときには愕然とした。 「うそだろ」 「うそだよね?」 悲劇のようにささやきながら、 「まじかよ」と、笑わずにはいられなかった。 よもや、自分の身体にそんな異変が起きているとは、気付きもしなかった。 わたしというのは、たいていまぬけな生き物なのだ。 * 10日間の療養生活を明けた、朝のことだった。 会社に行こうと家を出て、すぐに気づいた。 いつもの速度で、歩けない。 やろうと思えばできたかもしれないけれど、大変に困難なことで、やっぱりできなかった。 *

花のある暮らし

花を飾っただけで、こんなにしあわせ!!! なんでもないツイートに、君からの「いいね」がついたとき、さあっと思い出した。 数ヶ月前、君と出掛けたときのこと。 スターバックスでコーヒーを飲んで、 あとから来る友達との集合場所へ、わたしたちは歩くことにした。 花屋を見つけて、「花はいいね」ってふたりで笑った。 大学時代からの友人で、もう十年以上の付き合いになるけれど、花の話をしたのは初めてだったと思う。 それなのにふたりして、「いいね」「お出掛けじゃなかったら買って帰りたいね

暗闇の反対側

まるで、奈落みたいだ。 栄えある何かなんて何もなくても、わたしはわたしの日常という名の、なんとなくそれなりの”舞台”を勇敢に歩いているつもりだった。 格好悪くても、勇ましさだけは忘れないように。 ふいに落ちた先は奈落で、 暗くて、誰もいなくて、いつまで経っても舞台に迫り上がることはなかった。 誰もいないんだから、当然だった。 スポットライトなんか用意されているわけもなく わたしは、わたしだけの暗闇から、自力で這い上がるしかないのだと気づいていた。 * あなたを思い出