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「教師」という最高の仕事。

学級経営の本を読んでいると、学級開きの記事を多く目にする。「1年間の学級経営は、黄金の3日間が命。」だとか、「4月を制する者が1年間を制する。」「学級経営で楽をするなら4月は死ぬ気で頑張ろう。」などという記事をたくさん読んできた。しかし、3月に行う「学級閉め」の記事は、あまり多くないように感じる。それは、「学級閉め」が、1年間学級経営を続けることができたご褒美だからだと思う。もうここまでやってこれたら、難しいことを考えず、子どもたちからのプレゼントを楽しむだけだ。

4月が教師から「子どもへ与える」月だとすれば、3月は、「子どもからいただく」月だ。1年間をかけて子どもたちと共につくりあげた「学級」。立ち止まって振り返ってみると、子どもたちの成長に驚かされる。成長をした子どもたちが、「別れ」を意識して、自分たちで「学級の最後」をどのようにデザインしようか動き始める。もちろん、僕からお別れ会を提案することはない。

しかし、今年度は特別だ。3月の登校日数が1日しかなかった。当然、「別れ」の準備も整っていない。しかも、本来ならば半日をかけて解散するところを、今日は学校滞在時間2時間目までという条件付き。その中で、終了式や離任式、通知表を渡したり新年度の連絡をする必要がある。落ち着いている暇はない。でも、思い出に残るような「学級閉め」をしたい。ということで、僕は、また歌の力をかりることにした。

もちろん練習の時間はない。細かい手立てを考えた。まずは、選曲だ。「別れ」を意識できて、尚且つ子どもたちの5割は知っているであろう歌、ゆずの「友~旅立ちの時」を選曲した。多くの子どもたちが知っていることを祈りつつ、黒板一杯に歌詞を書いた。歌詞カードを配っている時間がもったいない。しかし、歌詞がなければ歌えない。僕の独唱になるのを防ぐために歌詞を書いた。大切なのは、うろ覚えでも、自信がなくてもいいので、「みんなで歌った!」という思い出である。さらに、少ない時間で歌をインプットできるよう、1年間の思い出スライドショーを流すバックミュージックとして、「友、今君が~♪」とひたすら曲をリピートした。朝からずっと。子どもたちは、登校してくると、テレビの前に集まって写真を見ながら歓声をあげている。その後ろで、「友、僕たちに~♪」とひたすら繰り返した。

荷物整理の時間。机やロッカーの中を整頓しているときも「友、進むべき~♪」とひたすら流す。すると、荷物整理しながら「友、この歌を~♪」と広がる鼻歌。これは、いけると確信した。

あっという間に2時間が経過した。いよいよ、最後の思い出づくり。みんなで合唱する場面になった。もちろん、この歌をみんなで歌うのは初めてだ。そこで、僕は、もう2つ手立てを打った。まずは、「みんなで歌うところを明確にする。」ということだ。最初から、「みんなで全部歌おう!」だとハードルが高くなってしまうので、「今から先生が歌のプレゼントをする。でも、みんなにも手伝ってほしいところがあるんだ。」と言って、「Wow,Wow」の練習をした。「Wow,Wow」などの歌詞が入っていると大変ありがたい。緊張をほぐすのに兆度いい。音程を取るというようりもノリで声が出せるからだ。僕の予定通り、クラスのムードメーカーが大声で「Wow,Wow」歌っている。みんなの雰囲気もかなりほぐれて笑顔が見える。そして、最後の手立ては「録画」をするということだ。「歌って終わり」でもいいが、もっと目に見える「目的」や「成果」があったほうがいい。このメンバーで歌った歌をその場で見たという経験は、きっと思い出に残るに違いない。さらに歌詞の中に「友、さようなら~♪」が入っているのが素晴らしい。「さようなら」をするタイミングさえも盛り込んでくれている。さすが「ゆず」である。

いよいよ本番。僕は心を込めて歌った。そして、僕がとった細かい手立ては無駄じゃなかったことが分かった。「初めてにも関わらず最高の歌声。」みんなが歌っている。恥ずかしがりやのあの子も、けんかが絶えなかったあの子もみんなが声を合わせて歌っている。Wow,Wowも完璧だ。歌い終わると、誰からともなく拍手が沸き起こる。本当に温かい空気が教室を包んでいる。涙を堪えながらビデオの操作に向かう。そして、気付いてしまった。

「撮影されていない。ボタンを押し忘れた・・・。」

「まあ、みんな落ち着き給え。」取り敢えず落ち着けと言ってみた。何のことか分からない子どもたち。「早く再生してくれ!」という気持ちをひしひしを感じた。いろんな言い訳を考えたが、最終的には「ごめん。」と謝る。「でも。でもさ、本当に素敵な歌声だったよ。」と言って閉めようとしていると、ある子が、

「先生!もう1回歌いましょう!」

何てことだ!この1年間。「友達のミスを責めてはいけない。そんなときこそ、前向きにさせてあげるのが友達だ!」と教えてきた成果がこんなところで現れるとは!「でも、授業時間終わっちゃうからなあ。」と言うと、別の子どもが、

「大丈夫だよ先生!授業終わっても完全下校まで10分あるから。」

何たる前向きさ!最後の最後に、子どもたちから大きなプレゼントをもらい、2回目の録画。3回ほど録画ボタンをチェックしてスタートしたこともあり、無事に撮影完了。途中でチャイムが鳴り、笑い声に包まれながらも最高の歌声をおさめることができた。

予定通り、「さようなら~♪」でさよならをした。帰るときに、数人の子どもたちから、寄せ書きをいただいた。個人的に手紙を書いてきてくれた子どももいた。お守りをつくってきて、「これをつけていれば、来年も元気でいられるよ!」とありがたいお言葉を残して、お帰りになったお子様もいた。様々な困難はあるが、与え続ければ必ず子どもたちはそれ以上のものを返してくれることを毎年感じることができる。やっぱり、教師は最高の仕事だ!

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