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小説「くもりとハンガー」

テーマ小説
「くもり、ハンガー、飛行機」
友達とこの3つのキーワードを使って小説を書いてみようという遊びをやってみました。

今作は構想から執筆まで30分ほどで作りました。
それではお楽しみいただけますと幸いです。

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飛行機を降りたのは午後3時。真由は空港でハンバーガーを食べながら腕のカシオの時計を眺めた。
「もう4時かぁ」
そういってハンバーガーを口にほおばる。おなかが減っていないのにもかかわらず買ったビックバーガーセットにはまだポテトが残っていた。

外に見える飛行機が離陸のため滑走する。轟音を吹かせながら力をためる飛行機はこれから目にする空の旅への汽笛だろう。陸を離れるその瞬間はすっと静かになって、体が自分のものじゃなくなったかのように感じる。そう、ふわっと飛んでいく。

「あ、飛行機とんでく」

そう言ってから何機が飛び立っただろう。真由はいまだにポテトには手を付けていなかった。




彼女がインドから帰ってきたのはつい1時間前、午後3時だ。傷心旅行なる題名がついたこの旅行は新たなインド人の彼氏とのスペクタクルな日常であった。しかし彼女、アリシャ(インドで真由はこう呼ばれていたのだ)は全くの人違いだったらしいことが帰国する4時間前に発覚した。ああ、なぜ彼は川辺でカフェをしたり、タージマハルの観光客を前にして唇を奪ったりする彼女を間違えるというのだろうか。真由は新しい彼氏を目の前につたない英語で話すもまさかアリシャとは人の名前のことだとは。辞書でアリシャと検索した真由の純真な心はただ残酷な結末を見せるスパイスになってしまったのだ。

帰国1時間前。真由はようやく本当のアリシャから逃げ出して飛行機に乗り込んだ。席に座り込むとぐったりで数時間後には成田へついていた。行きに感じていたふわっとした感覚は帰りにはなかった。飛行機が足がつく。それと同時に飛び跳ねるように目を覚ました。またあの感覚を味わえなかった。数時間動かさなかった重い体をゆっくり動かし、ひとまずの地面を踏みしめる。そして曇りの日本が真由を出迎えた。それからはすぐに空港のハンバーガーショップに駆け込み、また一休みというわけである。

「なんかいろいろあったなぁ」

真由は初の海外旅行だった。飛行機に乗ることすら初めてなのだ。楽しみにいていた、そして楽しかったインドが終わった。

「あとちょっとだけいたかったな」

彼氏のことではない。インドのことである。

「うーーん、帰って着替えの洗濯か。ハンガー足りるかな。明日から仕事めんどくさいー」

真由はその後も1時間そのハンバーガー屋さんで座っていた。そのころには店員さんからの視線が厳しくなってきていたが、気にしない。インドの思い出は思い出というには早すぎるが、真由には思い出すのに十分な猶予を飛行機での睡眠でもらった。インドカレーの辛さを思い出し、唇を触りまがら彼との唇が今でも残っていることを思い出す。そして飛行機の轟音を聞く。

最後の一本のポテトを食べたとき、真由はダイソーによってハンガーを買い足そうと思った。

「さぁそろそろ、帰ろ」

 終

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