見出し画像

レシピ本はどこへ向かっているのか?

以下、私の場合。
イギリスの食研究家として、 2015年春に『イギリス菓子図鑑』を上梓しました。
編集者・ライターとして、(イギリスのみならず)食全般の企画や構成、執筆などを行っています。こちらは表に出る仕事ではないので、見えないところであれやこれややっています。
つまり、ここに1冊の本があるとしたら、著者としても、裏方(編集関係)としても携わっているのです。


だから、なのかもしれません。
ほんと、そうだよなぁ、としみじみ共感してしまった記事が、2015年8月18日(木)づけのイギリスの新聞、The Guardianにありました。
題して、
今の料理本で重要視されているのは、レシピではなくデザイン?
Cookbooks' key ingredient now design not recipes, says food writer

レシピ本に関わるそれぞれの立場から、それぞれの見解が以下のように紹介されています。


食ライター:「レシピ本にもはや実用性は求められていません。ビジュアルが重視されたこれらの本は、コーヒーテーブルブックとして、気が向いたときに開いてパラパラと眺めて楽しむものになってしまいました。本当にレシピを知りたいなら、インターネットで検索するのが実情でしょう。
かつてのレシピ本には写真などはなく、文字だけで構成されていました。そして台所に常備され、気がつけば、調理中の調味料などのしみがところどころにつくほど使い込まれたものです。
しかし、今のレシピ本の主流は違います。たとえば地中海料理の本であれば、スペインの海の風景などの写真もふんだんに盛り込み、紹介しているレシピの世界観を打ち出しています。
クリスマスのギフト需要が高い時期には、レシピ本もよく売れます。ここで高いセールスを見せるのは、セレブリティシェフによる、美しいデザインと写真で構成されたもの。レシピを再現するため、ではなく、見て楽しい本として、いわば写真集と同じ感覚でプレゼント用に買い求められているのです」

TVシェフ:「私はSNSを積極的に活用しています。
そこでは、毎日何十枚もの写真が投稿され、それらは私のレシピ本で実際に料理を作ってみたという報告。
確かに、私自身の本を作るときに、写真やデザインも大事な要素ではあるけれど、やっぱりレシピの持つ実用性が占める割合も大きいと考えざるをえません」

書店の料理セクション担当:「今やレシピはインターネットで簡単に、しかも無料で入手できるのが当たり前となりました。
本を購入となると当然お金がかかります。となると、単にレシピそのものではなく、なにかしらの付加価値がないと、人々はレシピ本にお金を払ってくれません。
たとえば、アート性の高い写真、一流のコピーのような本のタイトル。こういういった本をよりよくアピールするための要素とレシピとがバランスよく合わさって、初めてベストセラーが生まれるのです。
昨今売れ行きがいいのは“Eat Well”に関するレシピ本。売れている本に共通しているのは、レシピやビジュアルに加えて、著者のライフスタイルや考えが散りばめられた内容となっています」

出版社ディレクター:「写真がもつ訴求力の大きさは計り知れません。ですので、ここ20年、レシピ本がより撮影に注力されてきたのは当然のことと言えます。
ですが、レシピ本はやはりレシピ本です。すぐれたレシピは根幹を成す大事な要素です。
ここに近年のベストセラーのひとつ、しゃれたトーストの本があります。この本の著者の名前は記されていません。しかし、ひとつひとつのレシピに写真を添え、わかりやすいレシピとなっているところが受けて、売れていると考えます。
つまるところ、売れているレシピ本は、ベッドサイドにあっても台所にあっても“使える”本なのです。ビジュアルの美しさで眺めてもよし、レシピとしても活用してもよし、どちらか一方ではなく、どちらをとってもすぐれた本なのです」


うんうん、わかるなぁ。レシピ本のおかれた現在の状況、わかり過ぎるほどわかるなぁ。
これって、何もレシピ本に限ったことじゃない。
イギリスのトラベルガイドも、かつてはモノクロの文字のみで、たま〜に口絵として写真が入っていたものが主流だったけれど、写真をふんだんに使ったり、特集を組んだり、変わってきたなぁと感じます。

いい悪いではなく、時代が進むのに伴う変化は当然で、そこでベスト(上質なものを作りたいし、売れて欲しい!)のものを目指す! それはもはや出版物だけでないのは明白。模索は一生続きそうです。

ちなみに、シェフのヨタム・オトレンギ/Yotam Ottolenghiとブロードキャスターのティム・ヘイワード/Tim Haywardは以下のように見解を述べています。こちらも一読してみるとよいかと。
Does it matter how we use cookbooks?


※以降に文章はありません。「投げ銭」で応援いただけるとうれしいです。

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?