読書は点字に限る
読書用に使っているブレイルメモスマート(点字ディスプレイ)が昨日戻ってきた。行送りキーの調子が悪くて、9月末から業者に修理に出していたのだ。
生まれつき全盲の私が普段読み書きに使っている文字は点字である。点字で下書きをしたこの記事(エッセイの下書き作業にはブレイルメモポケットを使っている)をパソコンで清書しながらnoteに上げる時のように、パソコンやIphoneの画面読み上げの音声を使うことも多い。しかしそれは点字で書いた文章を目が見えている人たちに届けるための、あるいはニュースをチェックしたり、ネットで調べものをする時などの情報を得るための2次的なツールであって、メインで使う文字は私の場合点字なのだ。視覚障碍者の中でも点字を使わない人が増えてきている今でも点字を使うことにこだわり続けているのは、きっと私が盲学校で点字の読み書きができなければ生きていけないんだと教え込まされて育ってきた最後の世代だからかもしれない。
点字を習い始めた幼稚部の頃から盲学校を卒業した時ぐらいまでは、点字板やパーキンス(点字タイプライター)を使って点字紙というそれ用の分厚い紙に書いたり読んだりしていた。だがブレイルメモを使うようになってからは、点字も活字と同じようにデータ化できるようになった。これは非常に画期的なことである。
点字を書く上でも、点字紙の場合書いた文字を消すことなら爪で削ったり点消し棒なる物を使ったりすればどうにかできるけれど、文字を書き足すことは難しかった。でもそれがブレイルメモならパソコンと同じようにデリートやバックスペースキーを使えば点字でも簡単に文字を消したり書き足したりすることができるようになった。
また読む上でも、それまでは百科事典並みの分厚い本を何冊も点字図書館で借りたり返しに行ったりしていたのが、ブレイルメモを使うようになった今では『サピエ』というネット図書館からデータで本をダウンロードして読めるようになった。なので部屋で置き場所を取ったり、持ち運ぶ時にもかさばることもなくなった。
と、ここまで書いてきて点字やそれらの機器に関する詳しい説明をいろいろとすっ飛ばしているかもしれないと気づいた。だがそれらについていちいち書くのも長くなるしめんどうなので、気になったり興味を持ってくれた方は、お手数ですがググったりウィキったりしてみてほしい。
そんなわけで昨日ブレイルメモスマートが修理から戻ってきてくれたおかげで、久しぶりにまた点字で読書ができるようになった。読みかけになっている本もたくさんあるけれど、とりあえず今はずっと読みたいと思っていた宮崎智之さんのエッセイ『平熱のまま、この世界に熱狂したい』を読み始めている。
私の場合だが、やはり読書をするなら点字に限る。音声だと間に人の声が入るのでどうしても自分で読んでいる気になれないのだ。それと点字で読書をしていると、今読んでいる宮崎さんもそうなのだが、ラジオなどで著者のお声を聞いて知っているので、読んでいて頭の中でその著者の声で文章が再生されるのもおもしろい。また所々よく分からない話題が出てきても、点字を指でなぞっているだけでも心が落ち着くことだってある。
確かに点字は覚えるのもたいへんだし、速さを調節できる音声で読むよりも時間がかかるかもしれないけれど、点字で読めるからこそのおもしろさもたくさんあると思う。
Itの進歩により、たぶんこの先も点字を使わない視覚障碍者はドンドン増えていくだろう。それにより将来的には点字は衰退するだろうとも言われているらしい。そうなってしまうその日まで、私はこれからも点字を使い続けていく。